研修時間の扱い ── 就業時間外や休日に研修するとき、社内で確かめること
「業務を止めたくないので、研修は土曜日か、定時のあとにできませんか」
日程の相談でよく出る一言です。営業も製造も、平日の日中に半日抜けるのは痛い。それなら業務のない時間に入れればいい、という発想は自然です。
ただ、就業時間外や休日に研修を置くと、研修の中身とは別のところで確かめることが増えます。その時間を社内でどう扱うのか。残業代や休日出勤の扱いはどうなるのか。助成金を検討しているなら、訓練の実施時間に関する要件と合っているか。この記事は、日程を決める前に社内で確かめておく項目を順に並べたものです。
先にお断りしておきます。労働時間や賃金の扱いは、研修の実態と自社の就業規則によって変わるため、この記事で答えを出すことはできません。助成金の要件も年度・コース区分によって変わり、支給の可否は管轄労働局の審査で決まります。ここに書くのは確認の順番です。判断は、社労士など専門家に確認する前提で読んでください。登場する会社の例は架空の想定例です。
「土曜にやれば業務は止まらない」は、半分だけ当たっている
土曜に研修を入れれば、平日の業務は止まりません。そこは当たっています。止まらない代わりに、別のものが動きます。
ひとつは費用です。会社が受けるよう指示した研修を休日に行えば、その時間の扱いによっては、休日出勤の手当や割増賃金の話になり得ます。研修会社の見積には出てこない費用が、人件費の側に出てくるわけです。
もうひとつは出席です。平日の日中なら全員がそろう研修でも、土曜や夜になると、育児や介護、通院といった事情で出られない人が出てきます。抜けた回は、その人の分だけ研修が欠けます。助成金を検討している場合は、出席の状況がそのまま要件の確認にかかわります。
それから疲れ。5日働いたあとの土曜に4時間の演習をすると、後半の集中が目に見えて落ちる、という声はよく聞きます。
時間外や休日に置くこと自体が悪いのではありません。平日の業務と引き換えに、費用・出席・疲れのどれを動かしているのか。それを決める前に見ておく、ということです。
確かめること1:その研修は「会社の指示」か「任意」か
最初に確かめるのは、研修の位置づけです。会社が受講を指示する研修なのか、本人の希望で受ける任意の研修なのか。
一般に、会社の指示で受ける研修の時間は労働時間として扱われる、と説明されることが多いです。一方で、参加が本当に自由で、受けなくても不利益がない研修は、扱いが異なる場合があるとされています。ただ、どちらに当たるかは研修の実態で判断されます。この記事で線を引くことはしません。
気をつけたいのは、書類の上では「任意参加」なのに、実態がそうなっていない場合です。人事が受講者を指名して名簿を作っている。上司から「出ておいて」と言われている。受講しなかったことが評価面談で話題になる。こうした事情があると、任意と言い切るのは難しくなります。
研修の案内文に何と書くかも、ここで決まります。「希望者は」と書くのか、「受講してください」と書くのか。案内を出す前に、人事・労務の担当者と位置づけをそろえておきます。
確かめること2:就業規則と賃金規程の、どこを読むか
位置づけの次は、自社の規程です。読む場所はおおよそ決まっています。
| 読む場所 | 確かめること |
|---|---|
| 始業・終業の時刻、休日の定め | 研修を置きたい時間が、所定の労働時間・休日の内か外か |
| 時間外・休日労働の定め | 時間外や休日に働いてもらう場合の手続きと、割増賃金の扱い |
| 振替休日・代休の定め | 休日に研修をした場合に別の日を休みにする運用があるか。あるなら、どちらで処理するか |
| 時間外・休日労働に関する労使協定(いわゆる36協定) | 研修の時間を足しても、協定の範囲に収まるか |
| 教育・研修に関する定め | 研修の受講について、規程に書かれていることがあるか |
シフト制や変形労働時間制をとっている職場では、「所定の時間」の考え方そのものが人によって違います。夜勤のある製造の人と、日勤の事務の人が同じクラスに入るなら、同じ土曜の午前でも、ある人には所定外、別の人には所定内ということが起こり得ます。名簿を作る段階で、受講者ごとの勤務形態を一覧にしておくと、確認が速くなります。
管理職を受講者に含める場合も、一般の社員と扱いが異なることがあります。誰がどの扱いになるかは、社内で決めつけずに確認してください。
確かめること3:費用と記録を、勤怠の側でどう処理するか
規程を読んだら、実際の処理を決めます。人事・労務と、研修を担当する部署のあいだで抜けやすいところです。
費用の面では、時間外や休日に研修をした場合の手当や割増賃金が、研修の予算に入っているかを見ます。研修費は見積で見えますが、こちらは誰かが計算しないと見えません。架空の想定例ですが、10名が4時間の研修を土曜に5回受けると、勤怠の側で動く時間は延べ200時間になります。金額は会社ごとに違うので書きませんが、この時間数は稟議の前に一度出しておくと、あとで慌てずに済みます。
記録の面では、勤怠の打刻をどうするかを決めます。研修の日に出勤の打刻をするのか。研修の時刻は勤怠システムにどう入れるのか。オンラインで自宅から夜に受ける場合は、とくに抜けやすい。研修の実施記録には受講時間が残るのに、勤怠の記録には何も残っていない、という食い違いが起きます。
助成金を検討している場合、支給申請では出勤簿や賃金台帳など、社内の労務書類の提出が想定されています。研修の実施記録と勤怠の記録で時刻が合っていないと、説明を求められる可能性があります。当日の記録の残し方は助成金で求められる訓練の記録に書きました。
助成金を検討しているなら、実施時間に関する要件を読む
人材開発支援助成金を検討している場合は、ここで制度側の資料を読みます。訓練を所定労働時間の内に行うか外に行うかによって、扱いにかかわる定めが置かれていることがあるからです。
具体的な要件と数字は、ここには書きません。要件は年度・コース区分によって変わり、この記事を書いた時点の内容が、読んでいる時点で同じとは限らないからです。最新の要件は厚生労働省の公式資料で確認してください。そのうえで、少なくとも次の3つを確かめておきます。
1つ目は、所定労働時間の外や休日に行う訓練が、利用を考えているコース区分でどう扱われるか。2つ目は、賃金に関する助成がある場合に、その対象となる時間がどう数えられるか。3つ目は、時間外や休日に訓練を行う場合に、賃金の支払いについて求められていることがあるか。
どれも、支給要領の記載を自社の勤務形態に当てはめて読む作業になります。当てはめで迷ったら、社労士か管轄労働局に確認します。支給の可否は管轄労働局の審査により決定されるので、社内の読み方だけで決めないでください。訓練時間に何が入り、何が入らないかという数え方そのものは、助成金の対象になる訓練かを、カリキュラムを作る前に確かめるで扱っています。
もうひとつ。計画届を出したあとで「やはり平日から土曜に移したい」となると、日程の変更になります。変更の扱いは計画届を出したあとに変更が出たときに整理しました。時間外・休日にするかどうかは、届出の前に決めておきます。
社労士に持っていく質問を、1枚にする
ここまでの確認を、専門家に聞ける形に書き直します。顧問の社労士がいればその方に、いなければ助成金を扱う事務所に相談することになります。頼み方は社労士にどう頼むかに書きました。
持っていく1枚には、次の4点を書きます。研修の位置づけ(会社の指示か任意か、案内文の文面)。置きたい日時(曜日・時間帯・回数)。受講者ごとの勤務形態(日勤・シフト・管理職などの別)。助成金を使うかどうかと、検討しているコース区分。
この4点がそろっていると、「この日時に、この人たちに、この位置づけで受けてもらう場合、どう扱えばよいか」という具体的な質問になります。「土曜に研修してもいいですか」だけでは、相手も答えようがありません。
当社は研修会社なので、労働時間や賃金の扱い、助成金の可否を判断する立場にありません。申請の代行もしていません。お渡しできるのは、受講者ごとの出欠・実訓練時間・課題・修了確認を記録した実施記録です。社労士との相談で研修側の情報が要るときは、この記録と日程案を材料にしてください。
時間外に置く前に、平日の置き方を見直す
時間外や休日を考え始めた理由が「平日に半日抜けるのが痛い」なら、平日の置き方を変えるだけで収まることがあります。
1日まるごと抜けるのは無理でも、週1回の半日なら回せる。月末月初は抜けられないが、中旬の火曜と水曜の午後なら抜けられる。こうした組み方で、時間外に頼らずに済む会社は少なくありません。曜日と時間帯の外し方は15〜25時間の研修を、どう日程に割るかで具体的に書いています。
それでも時間外や休日に置くと決めたなら、ここまでの確認を済ませたうえで、案内文と勤怠の処理を先に決めておきます。順番さえ守れば、時間外の研修そのものが問題になるわけではありません。
よくある質問
自由参加にすれば、時間外に開催しても問題ありませんか?
案内文に「自由参加」と書いても、それだけで扱いが決まるわけではありません。人事が受講者を指名している、上司から出席を求められている、受講しないと評価に影響する、といった実態があると、任意と言い切れない場合があります。どう扱うかは研修の実態と自社の就業規則によって変わるため、必要に応じて社労士など専門家にご確認ください。
オンラインで自宅から夜に受ける場合も、同じ確認が要りますか?
要ります。受ける場所が自宅でも、会社の指示で受ける研修であれば、時間の扱いは職場で受ける場合と同じように確認が必要です。オンラインでとくに抜けやすいのは勤怠の記録で、研修の実施記録には受講時間が残るのに、勤怠の打刻が残っていないという食い違いが起きます。打刻の方法を先に決め、扱いに迷う点は社労士など専門家にご確認ください。
助成金を使う場合、休日に研修を入れると対象外になりますか?
一律には言えません。要件は年度・コース区分によって変わり、所定労働時間の外や休日に行う訓練の扱いや、賃金に関する助成の対象となる時間の数え方は、その年度の支給要領で確認する必要があります。支給の可否は管轄労働局の審査により決定されます。日程を決める前に公式資料を読み、自社の勤務形態への当てはめは社労士か管轄労働局にご確認ください。
日程より先に、位置づけと規程を確かめる
就業時間外や休日に研修を置くかどうかは、日程の問題に見えて、実際は労務の問題です。会社の指示か任意か。規程のどこに当たるか。費用と勤怠をどう処理するか。助成金を検討しているなら、実施時間に関する要件をどう読むか。この4つを社内で確かめてから、日程案を出します。
あらためて書いておきます。助成金の要件は年度・コース区分によって変わり、最新の内容は厚生労働省の公式ページでご確認ください。支給の可否は管轄労働局の審査により決定されます。労働時間や賃金の扱いを含め、判断に迷う点は社労士など専門家にご確認ください。
日程案と確認事項を並べるところから整理したい段階でも、ご相談いただけます。労務と助成金の判断そのものは、専門家の領域としてお任せする前提です。