研修費は先に払う ── 支給までの期間に、資金繰りで確かめること
「で、その助成金はいつ入るんですか。資金繰り表に書いておきたいので」。研修の稟議を回した人事担当者が、経理からこう聞かれて言葉に詰まる。架空の想定例ですが、人材開発支援助成金を検討している会社では、どこかで必ず出てくる質問です。
答えに詰まるのは、調べ方が足りないからではありません。支給されるかどうかも、いつ入金されるかも、会社の側では決められないからです。決められるのは、研修費をいつ払うかだけです。
この記事では、研修費を先に支払ってから支給の判断が出るまでの期間に、資金繰りの面で何を確かめておくかを書きます。助成制度の要件は年度やコース区分によって変わり、支給の可否は管轄労働局の審査で決まります。ここでは助成率や支給額、支給までの期間の目安といった数字は扱いません。最新の要件は厚生労働省の公式ページで確認し、個別の判断は必要に応じて社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
順番は、支払いが先で、支給の判断はあと
人材開発支援助成金は、研修費を前もって割り引く制度ではありません。会社が研修費を支払い、研修を実施し、終わってから支給申請を出し、管轄労働局の審査を経て、支給か不支給かが決まります。訓練経費を事業主が全額負担していることが前提になっているので、この順番は入れ替えられません。
工程を並べると、契約と請求、研修費の支払い、研修の実施、支給申請、審査、支給決定となります。研修費が会社の口座から出ていくのは2つ目の工程で、支給の判断が出るのは最後の工程です。その間、研修費は会社が負担したままになります。工程ごとに誰が何を持っているかは人材開発支援助成金の申請手順に書きました。
「いつ入るか」は、会社が決められない
経理が知りたいのは、入金の月です。ところが、ここに会社が書ける答えはありません。
支給申請を出す時期までは、研修の終了日から逆算して社内で決められます。その先の審査にかかる期間は、労働局の側の事情で変わります。書類に不備があれば照会が来て、回答するまで審査は止まります。同じ年度に同じ制度を使った知り合いの会社が「申請から◯か月で入った」と言っていても、それは自社の目安にはなりません。
だから経理には、「時期は審査次第で、こちらからは言えない」とそのまま伝えるのが正確です。曖昧な見込みの月を伝えると、それが資金繰り表に入り、いつの間にか予定として扱われます。予定の月に入金がなかったとき、説明に追われるのは人事担当者です。
もう1つ、時期の前に「入るかどうか」も決まっていません。出席が足りなかった受講者がいる、申請の期限を過ぎた、書類が揃わなかった。理由はさまざまですが、支給されない場合はあり得ます。受講者の欠席や退職が出たときの動き方は計画届を出したあとに変更が出たときにまとめています。
資金繰り表には、出ていくお金だけを先に載せる
資金繰り表への載せ方は、単純にしておくのがいちばん安全です。研修に関わる支出は、支払う月にすべて載せる。助成金は、収入の欄には入れない。
| 項目 | 載せる月 | 載せ方 |
|---|---|---|
| 研修費(受講料) | 請求書の支払期日の月 | 全額を支出として載せる |
| 講師の交通費(対面の場合) | 請求の月 | 実費の見込みを支出に載せる |
| 社労士への報酬(依頼する場合) | 社労士との契約で決めた月 | 契約書に書かれた金額と時期どおり |
| 研修時間中の受講者の賃金 | 研修の月 | 通常の給与としてすでに載っている。別に足さない |
| 助成金 | ── | 収入の欄には入れない。欄外に「申請中・審査次第」とだけ書く |
研修時間中の賃金は資金繰り表の数字としては変わりませんが、受講者がその時間は通常の業務から外れる、という意味では費用です。繁忙期に研修を置くと、残業や外注で埋めることになり、そちらが資金繰りに出てきます。日程の決め方は計画届から逆算した日程の決め方に書きました。
助成金を収入の欄に入れないのは、悲観的に見積もるためではありません。入るかどうかも時期も決まっていない数字を、決まっている数字と同じ列に並べないためです。支給決定の通知が届いてから、収入の欄に移せば間に合います。
経理と先に話しておく4つ
研修を申し込む前に、経理の担当者と次の4つを話しておくと、あとで慌てません。
支払いの時期と方法。 請求書の発行日と支払期日、振込先を確認し、資金繰り表のどの月に載せるかを決めます。支払いの条件は研修会社との契約書と請求書で決まるので、契約前に経理にも見てもらうと確実です。
支払いの記録の保管。 支給申請では、研修費を支払ったことを示す書類が求められます。請求書、領収書、振込の記録を、研修の書類と同じ場所にまとめて保管します。どの書類が要るかはコースと年度で変わるため、最新の支給申請の手引きで確かめてください。受講者ごとの実施記録の残し方は助成金で求められる訓練の記録にあります。
入金があった場合の処理。 支給決定のあとに入金があったとき、どの科目でいつ計上するか。会計と税務の扱いは会社の状況で変わるので、顧問の税理士に確認しておきます。
支給されなかった場合の社内の説明。 誰が、誰に、何を説明するか。ここを決めておかないと、不支給の通知が届いた日に、経理と人事の間で「聞いていない」が起きます。
「支給されてからのお支払いで」と持ちかけられたら
研修会社によっては、「助成金が入ってからのお支払いで構いません」「支給されなかったら返金します」と提案してくることがあります。資金繰りの面だけを見ると、ありがたい話に聞こえます。
ただ、先に書いたとおり、この制度は訓練経費を事業主が全額負担していることが前提です。支給を前提にした後払いや、不支給の場合の返金を約束する取り決めは、制度の趣旨とかみ合いません。そうした取り決めがあることで、かえって支給の要件の確認で問題になるおそれもあります。提案されたら、契約前に社労士等の専門家に確認してください。契約前に研修会社へ確かめておく質問は契約前に確かめる5つの質問にまとめています。
当社の支払い条件も書いておきます。研修開始前のお支払いを基本とし、条件は個別の契約書・請求書で定めます。助成金の支給を前提とした後払いや、不支給の場合の返金条件は設けていません。資金繰りの面では使いにくい条件に見えるかもしれませんが、制度の順番に合わせるとこの形になります。
支給されない場合を、稟議の段階で決めておく
資金繰りの話の最後に、いちばん先に決めておきたいことがあります。支給されなくても、この研修を実施するか。
「支給があれば実施する、なければ実施しない」という稟議は、順番が合いません。支給の判断は研修が終わったあとに出るので、そのときにはもう研修費を払っています。稟議では、支給がない前提の金額で実施するかどうかを判断し、助成金は「対象となり得るので申請を検討する」という位置づけで書くのが実態に合っています。
支給がない前提では予算が足りない、という結論になることもあります。その場合は、受講者の人数を絞る、時間数の短いコースから始める、実施を次の年度に回すといった選び方があります。助成金の見込みを足して予算を合わせるより、こちらのほうが後で困りません。
よくある質問
支給はいつごろ入金されますか?
支給申請のあと、管轄労働局の審査を経て支給か不支給かが決まるため、入金の時期は審査次第で、会社の側では決められません。書類の照会があればその分だけ時間がかかります。資金繰り表には入金の月を書かず、支給決定の通知が届いてから収入の欄に移す運用をおすすめします。最新の手続きは厚生労働省の公式資料でご確認ください。
支給が決まるまで、研修費の支払いを待ってもらえますか?
当社では、研修開始前のお支払いを基本としています。支払いの条件は個別の契約書・請求書で定めますが、助成金の支給を前提とした後払いや、不支給の場合の返金条件は設けていません。この制度は訓練経費を事業主が負担していることが前提のため、支給を待って支払う取り決めについては、契約前に社労士等の専門家にご確認ください。
支給されなかった場合、研修費はどうなりますか?
助成金は研修費を払い戻す仕組みではないため、支給されなかった場合も、研修費はそのまま会社の負担になります。当社も不支給の場合の返金条件は設けていません。そのため、稟議の段階で、支給がなくても実施するかどうかを判断しておくことをおすすめします。支給がない前提で予算が合わない場合は、人数や時間数を絞って始める選び方もあります。
払う時期だけは、会社が決められる
研修費は先に出ていき、入るかどうかとその時期は審査で決まります。資金繰り表には出ていくお金だけを載せ、助成金は欄外に置く。経理とは、支払いの時期、記録の保管、入金時の処理、不支給のときの説明の4つを先に話しておく。そして稟議では、支給がなくても実施するかを決めておく。会社が決められるのは払う時期だけなので、そこから組み立てると後で慌てずに済みます。
研修の日程と支払いの時期を、資金繰りに合わせて考えたい段階でもご相談ください。助成制度の可否の判断や申請の手続きは、申請事業主または社労士等の専門家が行うもので、当社は代行しません。