助成金で求められる訓練の記録 ── 何を、誰が、いつ残すのか

研修の当日、講師は中身に集中しています。受講する側も同じです。ただ、あとで効いてくるのは、その日に残した記録のほうです。

人材開発支援助成金の支給申請では、訓練を計画どおりに実施したことを書類で示します。そして当日に取らなかった記録は、後から作れません。研修が終わってから「出席簿はどこですか」と聞かれて慌てる、という話を、研修会社の側からたびたび見ています。

この記事が扱うのは、訓練を実施する当日の運用だけです。制度の要件は年度や区分で変わるため、必ず厚生労働省の公式資料と管轄労働局でご確認ください。当社は届出・申請の代行を行わず、助成率や上限額の解釈も行いません。以下の進行は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

手続き全体のうち、この記事が扱うのは1か所

助成金の手続きは、事前の確認、訓練計画届、訓練の実施、支給申請、審査と支給決定という流れで進みます。全体の見取り図は申請手順の5工程と必要書類の出どころに書きました。この記事はそのうち3番目、訓練を実施する当日だけを取り出しています。前後の工程については触れません。

後から作れない書類と、後から作れる書類

書類を「当日しか作れないもの」と「後で作れるもの」に分けると、当日の優先順位がはっきりします。

区分書類の例理由
後から作れない出席の記録、開始・終了時刻、受講者本人の署名、講師の署名その場にいた事実を示すもの。後日そろえると、事実と食い違う
後から作れない中抜け・遅刻・早退の記録当日の担当者しか把握していない
後から作れるカリキュラムの実施実績、研修会社の請求書研修会社が後日まとめて発行できる
後から作れる社内の稟議書、受講者の名簿社内に元データがある

当日にやるべきことは、上2行に絞られます。資料の体裁を整えるのは、翌週でも間に合います。

研修当日の時系列と、その時刻に残す記録。開始30分前の準備、開始時刻、休憩と中抜け、終了時刻の署名、当日中の保管までを並べた図
当日しか作れない記録は、時刻と署名です。順番を決めておくと、講師も受講者も迷いません。

開始30分前:机の上に出しておくもの

当日の進行役を1人決めます。講師ではなく、自社側の担当者です。人事の担当者でも、受講部門の管理職でも構いません。

その人が開始前に用意するのは3点です。受講者名簿、出席の記録用紙、当日の時間割。紙でもデータでも構いませんが、開始してから探し始めると、その分の時刻がずれます。

会場の様子や板書の写真を残す会社もあります。必須の書類ではありませんが、実施の状況を補足する材料としては役に立ちます。

開始時刻:「始めました」を記録する

定刻に始まらないことは、普通にあります。前の会議が延びた、受講者が2名遅れている。そのとき、時間割どおりの時刻を書いてしまうのがいちばんまずい対応です。

実際に始めた時刻を書きます。9時30分開始の予定が9時38分になったなら、9時38分と書く。ずれた理由をひとこと添えておけば、後から説明ができます。

遅刻者が来たら、その到着時刻も書きます。名簿に「9:52着」と書き込むだけで足ります。

休憩と中抜け:いちばん記録が抜ける時間帯

昼休みや小休憩の前後は、記録が抜けやすいところです。とくに、受講者が途中で席を外したとき。

現場で起きるのは、たとえばこういう場面です。午後の途中で顧客から電話が入り、1名が20分ほど会場を出る。戻ってきて何事もなく続ける。ここを記録していないと、その人の訓練時間は実際より長く記録されたままになります。

やり方は単純で、進行役が名簿の余白に退席時刻と復帰時刻を書きます。「14:10〜14:32 退席」。これだけです。

本人に書いてもらう方法もありますが、戻ってきた人は書き忘れます。進行役が書くほうが確実です。

なお、出席の割合が一定に満たない受講者は対象外として扱われる場合があります。割合の基準や時間の算定方法は年度や区分で異なるため、公式資料と管轄労働局でご確認ください。

終了時刻:署名はその場でもらう

終了時に、受講者本人に当日の受講記録へ署名または記名をしてもらいます。ここを翌日以降に回すと、全員分を集めるのに数日かかります。実際、これがいちばん集まりません。

講師の署名も同じで、その日のうちにもらいます。外部講師が帰ったあとに「署名をお願いします」と連絡するのは、双方にとって手間です。

受講者本人の記録として、当日の内容を数行書いてもらう運用を取る会社もあります。受講報告書や研修日誌といった名前で、様式は会社によってさまざまです。どの様式が必要かは区分によって変わるため、計画届を出す段階で社会保険労務士等の専門家に確認しておくと、当日に用紙が足りない事態を避けられます。

オンラインで実施するときの受講確認

オンライン開催では、出席の確認方法を先に決めておきます。当日に決めようとすると、進行が止まります。

現実的な方法は、次のような組み合わせです。

  • 開始時と終了時、休憩の前後に、進行役が口頭で出席を呼び上げて記録する
  • 会議ツールの参加ログ(入室・退室の時刻)を保存する
  • 途中の離席は、チャットに書いてもらうのではなく進行役が拾う
  • カメラの常時オンを求めるかどうかは、社内の方針として先に決める

参加ログは、会議が終わると取得できなくなるツールがあります。終了直後にダウンロードして保存する、という手順を進行役の仕事に入れておいてください。

研修会社が出す書類と、自社で作る書類

どちらが出すかを研修前に決めておかないと、申請の直前に押し付け合いになります。

書類主に出すところ
出欠と実訓練時間の記録研修会社(当日分は自社の進行役が補う)
カリキュラムの実施実績研修会社
講師の情報、修了の確認研修会社
受講者本人の署名・受講記録自社(当日その場で)
中抜け・遅刻・早退の記録自社(進行役)
請求書・領収書・振込の記録研修会社と自社の経理
出勤簿・賃金台帳自社(人事・労務)

研修会社がどの粒度の記録を出してくれるかは、会社によって差があります。契約前に確かめる方法は契約前に確かめる5つの質問に書きました。当社は受講者ごとの記録を、研修終了時にテンプレート・手順書とあわせてお渡ししています。

よくある質問

出席簿は決まった様式を使う必要がありますか?

コースや年度によって指定される様式が異なるため、一律にお答えできません。計画届を出す段階で、管轄労働局または契約している社会保険労務士等の専門家に、当日使う様式を確認しておくことをおすすめします。様式が決まっていれば、当日は印刷して机に出しておくだけで済みます。

受講者が体調不良で途中退席しました。当日やることはありますか?

退席した時刻を記録し、進行役の名前と一緒に残しておいてください。理由も1行で構いません。振替受講ができるかどうかは研修の設計によるため、研修会社に確認します。その受講者が対象になるかどうかは審査により決定されるもので、当社が判断できる範囲ではありません。

記録は誰が保管しますか?

当日の記録は自社で保管します。研修会社から受け取る書類とあわせて、研修が終わった週のうちに1か所へまとめておくと、支給申請のときに探さずに済みます。保管の期間や方法は区分によって定めがあるため、公式資料でご確認ください。

当日の担当を1人決めるところから

訓練の実施日にやることは、突き詰めると3つです。実際の開始・終了時刻を書く。中抜けを拾う。署名をその場でもらう。この3つは当日しか作れません。

そのためには、進行役を1人決めておくことが先になります。日程の逆算をするときに、講師の手配と同じ列に「当日の進行役」を書いておくと忘れません。逆算の考え方は計画届から逆算した日程の決め方にあります。

研修の日程と当日の記録の段取りを一緒に整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。手続きそのものは、申請事業主または契約した専門家が行うものです。