AI研修の見積書の読み方 ── 「一式」の中身を分けて聞く項目

研修会社から見積書が届く。品名の欄は「生成AI活用研修 一式」の1行で、その右に金額が1つ。稟議書に添付して回すと、決裁者から「これ、何が入ってるの」と聞かれる。担当者は答えられず、研修会社に電話をかけ直す。研修の相談を受けていると、この流れの話をよく聞きます。

「一式」という書き方そのものは、悪いものではありません。ただ、中身を知らないまま稟議を通すと、あとで「それは別料金です」が出てきたときに、社内で説明がつかなくなります。

この記事は、見積書の「一式」を項目に分けて聞く方法と、聞いたあとに時間あたりの単価へ割り戻す方法を書いたものです。研修費の相場や形式ごとの目安は扱いません。それはAI研修の費用相場と料金の見方に書いています。登場する見積や会社は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

内訳を聞くのは、値切るためではない

内訳を聞くと、値引きの交渉をしているように受け取られないかと気にする方がいます。目的は違います。聞くのは、社内で説明できるようにするためです。

決裁者が知りたいのは、金額の妥当性よりも、その金額で何が手に入り、何が手に入らないかです。講師が何時間来るのか。教材は誰が作るのか。研修が終わったあとに何が残るのか。これに答えられないと、決裁者は「よく分からないから、もう少し安いところも見てみて」と言いがちです。そうなると比べる対象が増え、検討がかえって長引きます。

研修会社の側も、内訳を聞かれて困ることは普通はありません。見積を作るときには、どこに何時間かかるかを見積もっているはずだからです。答えられない、あるいは答えがその場で変わる場合は、それ自体が1つの判断材料になります。

「一式」を分けて聞く9項目

研修費の「一式」には、おおよそ次の項目が入っています。研修会社によって呼び方は違い、すべてが入っているとは限りません。入っているか、入っていないか、入っている場合は何時間分か、を1つずつ聞きます。

項目聞くこと
事前の業務ヒアリング誰に、何回、何時間聞くのか。受講者本人にも聞くのか
カリキュラム設計自社向けに組み直すのか、既存の内容をそのまま使うのか
講師費(当日の実施)講師は何人か。実施時間は合計で何時間か
教材配布資料は自社向けに作るのか。研修後も社内で使ってよいか
演習の準備演習の題材は誰が用意するのか。社内の資料を出す必要があるか
記録の整備出欠・実施時間・課題の記録を、誰がどの形で残して渡すのか
研修後のフォロー振り返りの場や質問の受付はあるか。期間と回数はどうか
交通費・会場費対面の場合の講師交通費は含むのか、実費か。会場は誰が用意するのか
ツールのライセンス研修で使うAIツールの利用料は誰が持つのか

この表は、相手に送る質問の下書きとしてそのまま使えます。全項目に答えをもらう必要はありません。「入っていない」と分かった項目が、次の節で書く追加費用の候補になります。

見積書の「研修費一式」を、事前の業務ヒアリング、カリキュラム設計、講師費、教材、演習の準備、記録の整備、研修後のフォロー、交通費・会場費、ツールのライセンスの9項目に分けて聞くことを示した図
1行の「一式」を9つに分けて、入っているか・入っていないか・何時間分かを聞きます。

講師がいる時間と、いない時間

9項目を並べると、研修費には2種類の時間が入っていることが見えてきます。講師が受講者の前にいる時間と、いない時間です。

講師がいる時間は、当日の実施だけです。それ以外の、ヒアリング、カリキュラム設計、教材づくり、演習の準備、記録の整備は、受講者の目に触れないところで使われる時間です。見積の金額の差は、このいない時間の差から生まれていることが少なくありません。既存の教材をそのまま使う研修と、自社の業務を聞いてから組み直す研修では、当日の時間が同じでも、準備にかかる時間が違います。

どちらが良いという話ではありません。全社員に同じ基礎を配りたいなら、組み直しは要らないこともあります。見積を比べるときに確かめたいのは、いない時間の中身がそろっているかです。設計込みの見積と設計なしの見積を並べても、比較になりません。

入っていないものを、先に聞く

追加費用は、たいてい「入っていると思っていたもの」から出てきます。契約前に、入っていないものを相手の口から言ってもらうのが確実です。

よく出てくるのは、対面で実施する場合の講師交通費や宿泊費、会場費、研修で使うAIツールの利用料、受講人数が増えたときの追加料金、日程を変えたときの費用です。ツールの利用料は見落とされやすい項目で、研修会社の見積には入っていないのが普通です。研修の前にどのアカウントで受けるかを決めておく話は、研修の前に決めるアカウントの話に書きました。

聞き方は、項目を挙げて「この見積に含まれていないものを教えてください」と書くのが早いです。「何か追加費用はありますか」と聞くと、「基本的にはありません」で終わることがあります。

時間あたりの単価に割り戻す

内訳が分かったら、金額を時間で割ります。割る時間は、講師が受講者の前にいる実施時間の合計です。準備の時間は割る時間に入れません。準備は実施の質に効くものなので、単価を比べるときは実施時間を分母にそろえるほうが、比べやすくなります。

架空の想定例で計算してみます。研修費一式が180万円(税込)、1回3時間を6回で実施時間の合計が18時間、受講者が8名の見積だとします。この数字は計算の例として置いたもので、目安ではありません。

1人あたりは180万円 ÷ 8名で22.5万円。1時間あたりのクラス全体の単価は180万円 ÷ 18時間で10万円。1人・1時間あたりは、22.5万円 ÷ 18時間で1.25万円です。

ここで確かめておくことが3つあります。1つ目は、18時間に休憩が含まれているか。3時間の回に休憩が30分あるなら、実施時間は15時間です。2つ目は、金額が1人あたりの単価なのか、クラス単位の定額なのか。受講者が1人減ったときに総額が変わるかどうかが、ここで決まります。3つ目は、税込か税抜か。見積書の表記が税抜のことはよくあります。

日程の割り方で実施時間の数え方が変わることもあるので、半日の回と終日の回を比べるときは15〜25時間の研修を、どう日程に割るかもあわせて見てください。

当社の定価に含まれるもの、含まれないもの

自社の見積についても書いておきます。当社は税込の定価を公開していて、内訳は次のとおりです。

含まれるのは、業務の棚卸しとカリキュラムの設計、ライブ研修の実施と運営(講師、教材、匿名サンプルの課題)、テンプレートと手順書、実施記録の整備と引き渡し、振り返り会です。実施記録は、受講者ごとの出欠・実訓練時間・課題・修了確認を残したものです。

含まれないのは、対面で実施する場合の講師交通費(実費)、銀行振込の手数料、御社で利用するAIツールの利用料やライセンス費用です。10名を超える受講者の追加料金はかかりません。

支払いは研修開始前を基本とし、条件は個別の契約書と請求書で定めます。助成金の支給を前提とした後払いや、不支給の場合の返金条件は設けていません。助成金を検討している場合に研修会社へ聞くことは、契約前に確かめる5つの質問に分けて書いています。

研修会社に送る質問の文面

最後に、見積を受け取ったあとに送る質問の文面を置いておきます。架空の想定例です。

お見積りをありがとうございます。社内の稟議にあたり、「研修費一式」の内訳を確認させてください。

  1. 事前のヒアリング、カリキュラム設計、教材作成、演習の準備、記録の整備、研修後のフォローのうち、この金額に含まれるものと、それぞれのおおよその時間
  2. 講師が受講者の前にいる実施時間の合計(休憩を除く)
  3. この見積に含まれていない費用(交通費、会場費、ツールの利用料、人数や日程の変更に伴う費用など)
  4. 金額は1人あたりの単価か、クラス単位の定額か。税込か税抜か

この4つに答えが返ってくれば、稟議書の「費用の内訳」の欄は埋まります。答えをそのまま表にして添付すると、決裁者からの質問も減ることを見込んでいます。

よくある質問

見積の内訳を細かく聞くと、研修会社に失礼になりませんか?

失礼にはならないと考えています。研修会社は見積を作る段階で、どの作業に何時間かかるかを見積もっているはずです。聞く目的が値引きではなく、社内で説明するためだと最初に書いておけば、相手も答えやすくなります。答えがあいまいなまま返ってくる場合は、その研修会社がどこに時間を使う設計なのかを、もう一度確かめるきっかけにしてください。

1時間あたりの単価が安いほうを選べばよいですか?

単価だけで選ぶことはおすすめしません。分母を実施時間にそろえると比べやすくなりますが、準備の時間の中身、つまり自社向けにカリキュラムを組み直すのか、記録が残るのか、研修後のフォローがあるのかは、単価には表れません。単価は、中身をそろえたうえで最後に比べる数字です。中身が違う見積どうしを単価で並べても、安いほうが得だとは言えません。

「一式」の見積と、項目別の見積は、どちらが正しいのですか?

どちらも正しい書き方です。「一式」は、項目ごとに分けると誤解を招く場合や、項目の境目があいまいな場合に使われます。困るのは、一式の中身を聞いても分からないときだけです。項目別の見積でも、項目の名前だけで中身が分からなければ同じことなので、形式より、聞いたときに答えが返ってくるかで見てください。迷ったときは、この記事の9項目を添えて聞き直すのが早いです。

金額より先に、何が入っているかをそろえる

見積書の「一式」は、9つの項目に分けて聞けば中身が見えてきます。講師がいる時間と、いない時間に分ける。入っていないものを相手の口から言ってもらう。金額は実施時間で割り戻し、休憩、単価か定額か、税込か税抜かを確かめる。比べるのは、中身がそろってからです。

研修会社の見積を社内でどう説明するか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。