研修後に社内で広げる人をどう置くか ── 推進担当の役割と、置くと失敗する置き方

研修の最終日、振り返り会の終わりに聞くことがあります。「このあと、社内で音頭を取るのはどなたですか」。部屋が少し静かになって、部長が「じゃあ田中さん、頼むよ」と言う。田中さんは情報システムの担当で、研修には来ていません。

この場面を、当社は何度か見ています。研修の中身がどうだったかとは別に、ここで決まった1人の置き方で、半年後に社内で使われているかどうかが分かれます。

受講者の選び方はAI研修に誰を出すかに書きました。この記事はその続きで、研修が終わったあとに「広げる役」を誰にどう持たせるか、そして置き方を間違えると何が起きるかを書きます。登場する会社と人物は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

推進担当の仕事は、教えることではない

「推進担当」と聞くと、社内講師のような役を思い浮かべる方が多いのですが、それは違うと考えています。教えるのは、研修で済んでいます。研修後に足りないのは、教える人ではなく、使った人と使わなかった人の間を行き来する人です。

具体的には、次の4つです。

仕事やること頻度の目安
質問の交通整理「これ入力していい?」「うまく出ない」を受けて、答えられる人につなぐ随時。自分で全部答えない
型の置き場の管理研修で作ったプロンプトの型と手順書を1か所に置き、版を管理する月1回まとめて更新
月1回の共有の場の運営30分。使えた場面と使えなかった場面を出してもらう月1回
使わない理由を聞く使っていない人に「なぜ」を聞き、ルールか型か業務の問題かを切り分ける四半期に1回

4つとも、AIに詳しいかどうかとは関係のない仕事です。関係あるのは、社内の人に声をかけられるかどうか、部署をまたいで話を聞けるかどうか。地味ですが、ここが効きます。

研修後の推進担当の置き方。専任にする・情シスに丸投げする・質問先を1人にするという失敗する置き方と、兼任・部署ごとに1人・月1回30分の場という収まりやすい置き方の対比
左は善意で決まる置き方です。どれも3か月から半年で止まります。

置くと失敗する3つの置き方

相談で繰り返し見るのが、次の3つです。どれも善意で決まっているのが厄介なところです。

専任にする

「AI推進室」を作って1人を専任にする。従業員50名前後の会社でも、たまにあります。

専任にすると、その人は自分の業務を持たなくなります。すると、演習で使っていた「自分の仕事」がなくなり、半年もすると現場の困りごとから離れていきます。現場は「推進室の人が言っていること」として受け取り、自分の仕事とは別のものになります。

正直に書くと、100名以下の会社で専任を置いてうまくいった例を、当社は知りません。兼任で、業務の2割程度を割く形のほうが収まりがいいです。

情報システムに丸投げする

冒頭の田中さんの形です。「ツールのことだから情シスで」という判断は自然に見えます。

ただ、情シスが引き受けられるのは、アカウントの発行、入力してよい情報の技術的な制限、ログの確認まで。「見積書の下書きにどう使うか」は、営業の仕事です。情シスに聞いても「使い方は業務によりますね」としか答えられず、聞いた側は「聞いても無駄だ」と学習します。

情シスは、推進担当の相談先として1人いれば足ります。旗を振る側には置かないほうがいい。

質問が集まる先を1人にする

これがいちばん多く、いちばん見えにくい失敗です。

研修で飲み込みが早かった人に、自然と質問が集まります。本人も最初は嬉しい。ただ、3か月目には自分の業務が止まり始めます。「ちょっといい?」が1日に5回来ると、午後がなくなります。本人が疲れて答えなくなった瞬間、社内の質問先が消えます。

誰も悪くないのに、こうなります。

部署ごとに1人、兼任で、名前を出す

3つの失敗を裏返すと、置き方は自然に決まります。

  • 兼任にする。業務の2割まで
  • 部署ごとに1人。全社で1人にしない
  • 誰が担当かを、名前で社内に出す
  • 推進担当どうしが月1回集まる

「部署ごとに1人」は、受講者を同じ部署から複数出しておくと自然に決まります。研修で隣に座っていた人が、そのまま部署の相談先になるからです。逆に、各部署から1人ずつ出す組み方だと、戻ってから全員が推進担当になり、全員が孤立します。

名前を出す、というのは案内文に書くという意味です。「営業部は佐藤、総務は山田」。ここを曖昧にすると、質問は結局いちばん詳しい人に集まります。

誰にするかで迷ったら、研修で「いちばん上手かった人」ではなく「いちばん質問が多かった人」を候補にします。つまずいた経験がある人のほうが、つまずいている人の話を聞けます。

月1回の共有の場は、30分で議題を3つに絞る

推進担当が集まる場は、立派な会議にしないほうがいい。30分、議題は3つだけです。

  1. 先月、使えた場面を1人1つ(型を見せる)
  2. 使えなかった場面を1人1つ(何で止まったか)
  3. 型の置き場に足すもの・消すもの

1の「使えた場面」は、成果報告ではありません。「見積の下書きに使った、これがその指示文」と画面を見せるだけで足ります。他部署の人がそれを見て「うちでも似た仕事がある」と気づくのが、この場の目的です。

2のほうが実は大事で、「入力していい情報か分からなくて止まった」が3回続いたら、それはルールの問題です。社内ルールの第3条と第8条を見直す合図になります。「出力が使い物にならなかった」が続くなら、型の問題。「そもそもその仕事が来なかった」なら、業務の選び方の問題です。切り分けは、この場でやります。

議事録は要りません。型の置き場に「今月足したもの」が残っていれば、それが記録です。

推進担当を置かなくていい会社

ここは正直に書きます。

従業員10〜15名で、受講者の全員が同じフロアにいる会社なら、推進担当は要りません。隣の席で聞けるからです。役を作ると、かえって「担当じゃないから」という言い訳が生まれます。この規模なら、月1回の共有の場だけを社長か部長が主催すれば足ります。

それから、推進担当の運営そのものを当社に頼む必要はありません。当社は研修後の振り返り会と、次に効率化する業務の候補整理までは行いますが、月1回の場を当社の講師が回し続ける形は、社内に残らないので受けていません。回すのは社内の人です。

上司が推進担当にしないほうがいいこと

推進担当を置いたあと、上司側で起きやすい失敗が2つあります。

削減時間の報告を求めること。 「AIで何時間減ったか、月末に出して」と言われた瞬間、推進担当の仕事は数字づくりに変わります。効果をどう見るかはAI研修の効果をどう測るかに書いたので繰り返しませんが、最初の半年は数字より「型が何本増えたか」「誰が使ったか」で足ります。

評価に直結させること。 推進担当の成果を人事評価に入れると、本人は「使わせる」ことを目標にします。使わない人に使わない理由を聞く役が、使わない人を責める役に変わります。評価に入れるとしても、2年目以降です。

ここは会社によって違うので断定できませんが、当社の見ている範囲では、推進担当は「成果を出す役」より「止まっている場所を見つける役」として置いたほうが長く続きます。

よくある質問

推進担当には、研修を受けた人でないとなれませんか?

受けた人から選ぶことをおすすめします。研修で作った型と、演習で何につまずいたかを知っている人でないと、質問を受けたときに話がつながらないためです。受けていない人を置く場合は、少なくとも研修で作った成果物一式を読み込み、受講者の1人と組んで動く形を想定しています。

推進担当の人数は、何人が目安ですか?

部署ごとに1人、全社で3〜5人を想定しています。受講者を出した部署から1人ずつ選び、受講していない部署には置きません。置いても相談が来ないからです。1人で全社を見る形は、質問がその人に集中して3か月で止まる例が多いため、避けることをおすすめします。

推進担当が異動や退職で抜けたら、どうすればよいですか?

型の置き場と月1回の場が残っていれば、次の人に引き継げます。逆に、その2つが本人の頭の中にしかない状態だと、抜けた時点で消えます。置き場の管理を最初から「本人以外も更新できる場所」にしておくことと、月1回の場に部署の上長が同席していることが、引き継ぎの保険になります。

広げる役は、教える役ではない

推進担当は、社内講師でも、数字を出す役でもありません。質問を交通整理し、型の置き場を管理し、月1回の場を回し、使わない理由を聞く。この4つを、兼任で、部署ごとに1人、名前を出して置く。専任にしない、情シスに丸投げしない、質問先を1人にしない。

研修の前に置き方まで決めておくと、最終日の「誰がやりますか」で部屋が静かになりません。誰を置くか自社の名簿で迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。