AI研修に誰を出すか ── 受講者の選び方で、研修後の景色が変わる
AI研修の相談で、テーマの次に時間がかかるのが人選です。そして、いちばん軽く決められてしまうのも人選です。
「興味のある人に手を挙げてもらいます」。よく聞く答えですが、手を挙げるのはたいてい、すでに自分で触っている人です。研修で学ぶことの半分は知っています。一方で「全員一律に受けさせます」も、うまくいきません。その場にいるだけの人が半分を占めると、演習が止まります。
受講者の選び方で、研修後の景色は本当に変わります。同じ講師、同じテーマ、同じ時間でも、3か月後に社内で使われているかどうかが分かれる。正直に言うと、テーマ選びより人選のほうが結果への効き方は大きいと感じています。
この記事では、受講者を選ぶ3つの基準と、よくある4つの外し方、そして10名クラスの内訳の考え方を書きます。記載している内訳や進め方は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。
手挙げも全員一律も、外れる理由は同じ
一見、正反対の2つです。けれど外れる理由は同じところにあります。
「その人が研修後にどの業務をどう変えるか」を、誰も考えずに名簿が決まっている。手挙げなら本人の関心、全員一律なら公平さ。どちらも選定の基準が業務ではありません。
だから研修は成立します。参加率も満足度も悪くありません。ただ、終わった翌日に何かが変わる仕組みが入っていない。ここが厄介で、失敗が見えるのが3か月後になります。
受講者を選ぶ3つの基準
人選の基準は、次の3つに絞れます。
| 基準 | 確認する問い | 外れているとどうなるか |
|---|---|---|
| その業務を実際にやっている人か | 研修で扱う業務を、今週その人が手を動かしてやったか | 演習が他人事になり、持ち帰る素材が出てこない |
| 研修後に自分の裁量で変えられる立場か | 手順を変えるのに、何人の承認が要るか | 良い方法を覚えても、変更の稟議で止まる |
| 社内に教える役が回せるか | 半年後、その人が部署内で聞かれる側になれるか | 個人のスキルで終わり、部署に残らない |
3つすべてを満たす人ばかりは集まりません。それで構いません。クラス全体で3つが揃っていればよく、1人ずつで揃える必要はないからです。実務担当が5人、裁量のある係長が3人、教える役に向く人が2人。この配分のほうが現実的です。
とはいえ、1つ目の「実際にやっている人か」だけは譲らないでください。ここが欠けると、他の2つが揃っていても演習の素材が出てきません。
よくある4つの外し方
相談を受けていて、繰り返し見る外し方が4つあります。
管理職だけを出す
いちばん多い形です。「まず管理職に理解してもらってから」。判断としては筋が通っています。
ただ、部長・課長は日々の実務から離れていることが多い。演習で「自分の業務を1つ持ってきてください」と言うと、出てくるのが「部の方針」や「部下の業務」になります。手を動かす素材がないので、演習が評論になります。
戻ってからも、「これをやりなさい」と指示はできても、具体的な指示文までは書けません。結果、現場は「上が何か言っている」と受け取ります。
若手だけを出す
逆の形です。「デジタルに強い若手から」。これも理由は分かります。
若手は吸収が速く、研修中の成果物も良いものが出ます。問題はその後です。手順を変える権限がないので、戻ってから「こう変えたいです」と言っても、上長が判断できない。上長は研修を受けていないので、何が変わるのか分かりません。
架空の想定例ですが、若手10名で実施して、3か月後に「誰も業務では使っていない」となる。起きるとしたら、本人たちのやる気ではなく、承認の経路が塞がっていたという形です。
情報システム部門だけを出す
「まず情シスで検証してから全社展開」。安全に見えますが、検証の中身が業務ではなくツールになります。
情シスが確かめられるのは、接続の可否、ログの取り方、入力データの扱い。どれも必要なことですが、それが分かっても現場の業務は変わりません。「ツールは使えます」で止まり、「では何に使うのか」が誰の宿題にもならない。
情シスは、1〜2名を他部署と混ぜて入れるのが向いています。現場が「これは入力していいのか」と迷った瞬間に、その場で答えられる人がクラスの中にいる価値は大きいです。
手を挙げた人だけを出す
冒頭にも書きましたが、集まるのはすでに触っている人です。研修の内容が復習になり、満足度は出ても変化は小さい。
さらに厄介なのは、手を挙げた人が部署内でばらけることです。営業から1人、総務から1人、製造から1人。全員が自部署に戻ると1人きりになります。
10名クラスの内訳は、部署をまたぎすぎない
当社は10名以上を1クラスの定額としているので、「せっかくだから各部署から1人ずつ」という組み方をよく提案されます。費用の考え方そのものはAI研修の費用相場に書いていますが、人選としてはおすすめしません。
同じ部署から複数人を出してください。理由は単純です。1人だと、戻ってから孤立するからです。
研修で覚えた指示文を試すとき、最初の何回かは失敗します。そのとき隣に「あれ、どうやるんだっけ」と聞ける相手がいるかどうかで、続くかどうかが変わります。1人だと、失敗した時点で元のやり方に戻ります。誰も気づきません。
10名なら、次のような組み方を想定しています。
- 主対象の部署から4〜5名(実務担当中心、係長クラスを1〜2名含める)
- 隣接する部署から3〜4名(主対象と業務がつながっている部署)
- 情報システムまたは総務から1〜2名(入力ルールの相談先として)
部署は2〜3つまでに抑えます。4部署以上を混ぜると、演習で扱う業務が散らばり、お互いの成果物を参考にできなくなります。
なお、30名を超える規模では複数クラスに分割してご提案しています。1クラスに詰めるより、部署のまとまりを保ったほうが後が続きます。
人事が指名するとき、社内にどう説明するか
手挙げをやめて指名にすると、社内から「なぜ自分が」「なぜあの人が」が出ます。ここを曖昧にしたまま通知すると、初日の空気が重くなります。
案内文に、次の3つを入れてください。
- 選定の基準:「研修で扱う業務を現在担当している方」と書く。人の優劣ではなく業務で選んだことを明示します
- 研修後に何を期待するか:「部署内で手順を1つ決めていただきます」のように、戻ってからの役割を先に伝えます
- 選ばれなかった人の次:「次回は◯月に別テーマで実施予定です」と書く。ここが空欄だと、選別と受け取られます
「あなたが詳しいから」ではなく「この業務の担当だから」。この言い方に変えるだけで、受け取り方がかなり変わります。上司との事前の一言もあわせて用意しておくと、なお安全です。
人選が決まってから、テーマを詰める
人選と同じくらい効くのが、研修で扱うテーマと本人の業務がつながっているかどうかです。ここは研修が定着しない理由で扱っているので深入りしませんが、順番としては人選が先、テーマが後になります。誰が来るか分からないままテーマを決めると、一般論の講座になるからです。
テーマの絞り方は30分で研修テーマを1つに絞る手順に、研修会社へ確認しておくことは契約前に確かめる5つの質問にまとめてあります。
よくある質問
受講者は手を挙げた人から選んではいけませんか?
手挙げを併用すること自体は問題ありません。ただ、手を挙げるのはすでに自分で触っている人が多く、研修が復習になりがちです。手挙げの枠と、業務担当からの指名枠を分けて構成することをおすすめします。指名の基準は人の優劣ではなく「その業務の担当かどうか」で説明してください。
管理職と若手は、同じクラスに混ぜても大丈夫ですか?
混ぜたほうがうまくいく例が多いと考えています。若手だけだと手順の変更が承認で止まり、管理職だけだと演習の素材が出てきません。同じ部署から、実務担当と決裁できる立場の方を両方出す形を想定しています。人数の目安は実務担当を多めにし、係長・課長クラスを1〜2名含める配分です。
同じ部署から何人出すのがよいですか?
主対象の部署から4〜5名を想定しています。1人だけ出すと、戻ってから試して失敗したときに相談できる相手がおらず、元のやり方に戻りやすいためです。部署の数は2〜3つまでに抑え、各部署から1人ずつ広く集める組み方は避けることをおすすめします。
名簿を、業務から逆に引く
受講者は、関心でも公平さでもなく業務から選びます。その業務を実際にやっているか、戻って自分の裁量で変えられるか、社内に教える役が回せるか。3つはクラス全体で揃っていれば足ります。管理職だけ、若手だけ、情シスだけ、手挙げだけ——どれも外れ方が決まっています。そして同じ部署から複数人。1人だと、戻った翌週に消えます。
誰を出すべきか自社の名簿で迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。