「AIで何ができるか」から始めない ── 30分の打ち合わせで研修テーマを1つに絞る手順
研修テーマが決まらない会社には、共通点があります。会議の最初の議題が「AIで何ができるか」なのです。
これは順番が逆です。「AIで何ができるか」から考えると、話は広がる一方で、自社のどの仕事の話をしているのか分からなくなります。うまくいく会社は、困っている業務の側から出発します。AIに置き換えられるかどうかの判断は、あとで研修会社と相談すれば済むからです。
当社が配布している研修テーマの決め方ワークシートは、この順番を30分の打ち合わせに落とし込んだものです。使い方を、つまずきやすい点とあわせて説明します。記入例や数値はすべて想定例です。
打ち合わせの前に:誰を呼ぶか
部署の代表者1〜3名との打ち合わせを想定しています。ここで一つだけ、外せない条件があります。
実務を知っている人を入れてください。 管理職だけで書くと「営業」「経理」のような大きな業務しか出てきません。研修の題材になるのは「商談メモの整理」「差し戻し連絡の文面」のような作業の単位です。そこまで分解できるのは、その作業を毎日やっている人だけです。可能なら現場の担当者を1名加えてください。
持ち物は、直近1か月のカレンダーとタスクリスト。業務を思い出す材料になります。きれいに書く必要はありません。
0〜15分:困っている業務を、絞らずに書き出す
最初の15分は「絞らない」と宣言してから始めます。書き出しの段階で議論を始めると、件数が集まりません。目安は6件以上。
思い出すコツは三つあります。「毎回同じような文章を書いている」業務。「引き継ぎのたびに説明している」業務。そして、読む・書く・要約する・体裁を整える、といった文書の工程を含む業務。手が止まったら、直近1か月の送信済みメールを見返してください。書き出しの参考として、経理と営業の業務例を各10件、別の記事に載せています。
ここで大きな業務(営業、経理)が出てきたら、作業の単位(商談メモの整理、月次報告の下書き)まで分けてから書き直します。1回あたりの所要時間が答えられる粒度が目安です。
15〜25分:3〜5件に絞って、点数をつける
書き出した業務から候補を3〜5件だけ選び、頻度と時間で点数をつけます。頻度が高く、時間もかかる業務ほど、研修の効果を確かめやすいからです。
点数をつけるとき、当社が優先をおすすめしているのは次のような業務です。
- 担当者が複数いる業務(研修の対象者を集めやすい)
- テンプレートや手順書に落とせる業務(研修後、受講者自身が使える)
- 年1回ではなく、毎月・毎週くり返す業務(研修直後に練習の機会がある)
逆に、機密情報や個人情報を大量に扱う業務は、社内ルールの整備状況を先に確認します。ルールが未整備だと、研修後に使えない事態になります。ルールの最小構成は第3条と第8条だけ先に決めるを参照してください。
ここで点数を先につけてから議論するのが、実は重要です。順位が数字で決まるため、声の大きい人の困りごとだけでテーマが決まることを防げます。
25〜30分:1位の業務を、1枚にまとめる
1位になった業務を、研修のテーマとして1枚にまとめます。書く項目は5つです。
- 対象の業務と、担当者
- 変えたい状態(研修後にどうなっていれば成功か)
- 研修後に使いたいテンプレート・手順書
- 研修後の実行を確認する人(役職・氏名)
- まだ決まっていないこと・社内で相談すること
ここで最もつまずくのが2の「変えたい状態」です。「効率化する」で止まってしまう。これを「何が・どれくらい・どう変わるか」の形に直します。想定例で言えば、「返信の初稿づくりを約20分から5分程度にし、文面の品質のばらつきを減らす」のように、研修後に確認できる表現になっているかが目安です。
5の「まだ決まっていないこと」は、空欄のままで構いません。むしろ、ここに「機密情報の入力ルールが未整備。総務に確認する」のような論点が残っている状態が、30分のゴールとしては十分です。
記入例:カスタマーサポート部門の場合(想定例)
ワークシートを埋めた完成イメージを、想定例として載せます。社名・人名・数値はすべてサンプル用に作成したものです。
シート1(書き出し):問い合わせメールの返信、FAQの更新、クレーム対応の報告書、返品手続きの案内文、新人向けの対応マニュアル更新、月次の問い合わせ集計。6件。
シート2(絞り込み):頻度と時間で点をつけると、1位が問い合わせメールの返信、2位がクレーム対応の報告書、3位がFAQの更新。返信は1日に何十件もあり、1件20分かかるので、頻度・時間ともに最高点になりました。
シート3(1テーマに)
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 対象の業務と担当者 | 問い合わせメールの返信。サポート担当4名 |
| 変えたい状態 | 返信の初稿づくりを約20分から5分程度にし、文面の品質のばらつきを減らす |
| 研修後に使いたいもの | 問い合わせ返信テンプレート(よくある型10種) |
| 実行を確認する人 | サポート課長 |
| まだ決まっていないこと | 機密情報の入力ルールが未整備。総務に確認する |
「変えたい状態」に時間と品質の2つの観点が入り、「まだ決まっていないこと」に論点が残っている。この状態が、打ち合わせ30分のゴールとしては十分です。
完成した1枚は、そのまま稟議と相談に使える
この1枚は、研修会社への相談メモとしても、社内稟議の別紙としても、そのまま使える構成にしています。当社への事前相談でも、空欄が残ったままお持ちいただいて構いません。空欄があるほうが、初回から具体的な話ができます。
余談ですが、この30分で「研修は必要ない」という結論になることもあります。書き出してみたら、困っている業務がテンプレート1枚で解決する、というケースです。それはそれで、30分の価値があったと考えています。
つまずきやすい4つの場面
最後に、この打ち合わせで起こりやすいことを挙げておきます。いずれも進行の段取りで避けられます。
| 起きること | 対処 |
|---|---|
| 「AIで何ができるか」の議論から始まってしまう | 順番を逆にする。困っている業務から書き出し、AIの判断は相談に回す |
| 業務が大きすぎて点がつけられない | 作業の単位まで分けてからシート1に戻る |
| 声の大きい人の困りごとでテーマが決まる | 点数を先につけてから議論する |
| 「変えたい状態」が「効率化する」で止まる | 「何が・どれくらい・どう変わるか」の形に直す |
よくある質問
30分で本当に決まりますか?
1テーマに絞るところまでは30分で届きます。決まらない場合は、上位3件のまま持ち込んでいただいて構いません。当社の事前相談では頻度・所要時間・担当者数をうかがい、一緒に絞ります。
複数の部署でテーマを集めたい場合は?
部署ごとにシート1〜3を1セットずつ使います。部署をまたいで1枚にまとめようとすると、作業の単位まで分解できなくなります。
書き出した業務が、AIに向いているかどうか分かりません
その判断は打ち合わせの中でしなくて構いません。困っている業務が書き出せていれば、AIに向いているかどうかは研修会社との相談で確認できます。先に判断しようとすると、書き出し自体が止まります。