研修後の利用率をどう見るか ── ログで分かること、分からないこと
研修が終わって1か月。部長から「で、みんな使ってるの?」と聞かれ、担当者が管理者画面を開く。先週ログインしたのは受講者15名のうち6名。この数字を、どう受け取ればいいのか。
法人向けのプランを契約していれば、管理者画面に利用状況が出ます。見れば分かることと、見ても分からないことがあり、両方を知らずに数字だけ眺めると「6名しか使っていない」で話が止まります。6名は多いのか少ないのか、減ったのか増えたのか、減ったなら誰が減ったのか。見る順番があります。
この記事は、研修のあとに利用率を「どこで取るか」の話です。何を測るか(使われているか・時間が減ったか・品質がそろったか)はAI研修の効果をどう測るかに書いたので、ここでは繰り返しません。あの記事の「使われているか」の数字を、管理者画面のどこから拾い、ログに出ないものを何で補うか。それだけを扱います。登場する会社と数字は架空の想定例です。
管理者画面で分かるのは、だいたい3つ
ChatGPT や Microsoft 365 Copilot、Gemini の法人向けプランには、管理者向けの画面に利用状況のレポートがあります。製品やプランで項目は違いますが、研修後の確認に使えるのはおおむね次の3つです。
| 見られるもの | 何が分かるか | 見るときの注意 |
|---|---|---|
| ログインや利用の回数 | 週に何回開いたか、最後に使ったのはいつか | 回数を目標にしない。開いただけでも1回に数えられる |
| 利用者数 | 期間内に1回以上使った人が何人か | 分母を固定する。「受講者15名のうち」と決めておく |
| 部門別の内訳 | どの部署が使っていて、どの部署が止まっているか | アカウント発行時に部署の属性を付けていないと出ない |
3つめは、契約時にアカウントを発行した人が、部署やグループの属性を付けていたかどうかで決まります。付けていなければ、利用者の一覧を書き出して、受講者名簿と突き合わせる作業になります。1回なら30分で終わりますが、毎月やるのは続きません。これから契約するなら、発行時に部署を付けておきます。
見るのは「利用者数の推移」と「部門別」で、回数ではありません。回数を追うと、使う必要のない場面で開く人が出ます。「先月、受講者15名のうち何名が1回以上使ったか」を、月に1回書き留める。これが管理者画面でできる最小の確認です。
ログに出ないもの ── 何に使ったか、成果になったか
管理者画面を見ても分からないことが、少なくとも3つあります。
何に使ったか。 ログインの記録には、見積書の下書きに使ったのか、昼休みに献立を聞いたのかは出ません。製品によっては管理者が会話の内容を取得できる設定もありますが、当社は、それを前提にした運用をおすすめしていません。「上が中身を見ている」と受講者が思った瞬間、試す人が減ります。内容を確認する必要があるなら、社内ルールにその旨と目的を書いたうえで、個別の事情は必要に応じて専門家にご確認ください。
出力が業務に使われたか。 文章を作らせたことは分かっても、その文章が送られたのか、捨てられたのかは分かりません。研修で作った型を使ったのか、毎回ゼロから書いているのかも分かりません。
成果になったか。 所要時間が減ったか、確認者の直しが減ったか。これはログの外にあります。測り方は先ほどの記事に書いたとおりで、担当者に聞くしかありません。
つまり、ログで分かるのは「開いた人が何人いるか」までです。これは広がりの指標としては十分ですが、深さは分かりません。深さは、ログとは別の場所で取ります。
落ちるのは、研修後3週目が典型
利用者数は、研修の直後が高く、そのあと落ちます。これは普通のことで、落ちること自体は失敗ではありません。問題は、いつ落ちるかと、どこまで落ちるかです。
落ちるのは、研修が終わって3週目あたりというケースが多いです。理由はだいたい決まっています。
- 1〜2週目は、研修で作った型を「試す」のが続く。研修の記憶が新しく、試すネタも残っている
- 3週目に、試すネタが尽きる。研修で扱った業務が月に1回の業務だった場合、2回目が来る前に忘れる
- 同じ頃に、月末や締めの繁忙が重なる。急いでいるときは、慣れた手順に戻る
- 試した結果を見る人がいないと、「使っても使わなくても同じ」になる
4つめがいちばん効きます。研修が受けっぱなしで終わる理由はAI研修が「受けっぱなし」で終わる本当の理由に書きましたが、その2つめに挙げた「成果物があっても確認する人がいない」が、3週目に数字として出てきます。
だから、見るタイミングは研修後4週目です。3週目に落ちた数字を、4週目の月初に見る。ここで何もしなければ、2か月目にはさらに落ち、3か月後の測定で「使っているのは前から使っていた2名」になりがちです。
落ちたとき、先に見るのは理由ではなく部門別
利用者数が落ちたとき、最初にやりがちなのが「使わない理由」のアンケートです。それは3番目でいい。先に見るのは、誰が落ちたかです。
1. 部門別で、どこが落ちたかを見る。 15名のうち9名が使わなくなったとして、営業部の6名が全員止まっていて総務の3名は残っているなら、問題は営業部の業務のほうにあります。全部署で均等に落ちているなら、型の置き場か、確認する人の問題です。管理者画面の部門別が使えるのは、まさにここです。
2. 止まった部署の上司に、1件だけ頼んでもらう。 「次の見積書、研修の型で初稿を出してみて」と、上司が1件だけ指名する。これで、止まっていた人がもう一度開くケースが多いです。使わない理由を聞くより、使う理由を1つ作るほうが早いです。
3. それでも戻らない人に、理由を聞く。 ここで初めて「なぜ」を聞きます。聞くのは推進担当の仕事で、答えは、ルールが分からない・型が合わない・そもそもその業務が来ない、のどれかに落ちます。切り分け方は研修後に社内で広げる人をどう置くかに書いた月1回の場でやるのが収まりがいいです。
順番を逆にして、先に全員へ「なぜ使わないのですか」と聞くと、返ってくるのは「忙しくて」です。それは理由ではなく、使う場面が決まっていないことの言い換えです。
ログに足す2つの数字 ── アンケート1問と、テンプレートの本数
ログの「人数」だけでは、使っている6名が型を使っているのか、雑談しているのか分かりません。そこを補うために、当社がおすすめしているのは、たった2つです。
アンケートは1問だけ。 「先月、研修で作った型を使った業務を1つ書いてください(なければ空欄)」。これを月1回、部内定例の最後に口頭で聞くか、1問だけのフォームで集めます。設問を増やすと、答える人が減ります。空欄の多さが、ログの人数と並べたときの「深さ」になります。
テンプレートの本数。 研修で作った型を置く場所を1か所に決め、そこにある本数を月末に数えます。研修終了時に5本だったものが、3か月後に8本になっていれば、誰かが自分の業務で新しく作ったということです。5本のままなら、研修の型を使い回しているだけで、広がってはいません。本数は推進担当が月1回数えれば足り、集計表もいりません。
この2つをログの人数に並べると、報告が「15名中6名が利用」から「15名中6名が利用。うち5名が型を使い、テンプレートは5本から7本に増えた」に変わります。後者なら、次の部署への展開を決める材料になります。
| 取る場所 | 数字 | 分かること |
|---|---|---|
| 管理者画面 | 月の利用者数(受講者15名のうち) | 広がり |
| 管理者画面 | 部門別の内訳 | どこで止まったか |
| 月1回の定例 | 型を使った業務を1つ(1問) | 深さ |
| 型の置き場 | テンプレートの本数 | 自分の業務に広げたか |
見る人と、見る頻度
管理者画面を開ける人は、たいてい情報システムか総務の担当者で、研修の担当者とは別です。毎月「数字をください」と頼むのは、頼む側も頼まれる側も面倒になります。
収まりがいいのは、研修の担当者か推進担当に閲覧だけの権限を付けてもらう形です。製品によっては、設定を変えられない閲覧専用の役割が用意されています。それが難しければ、月初に利用者数と部門別の2行だけをメッセージで送ってもらう約束にします。書式はいりません。
頻度は、最初の3か月は月1回、4週目・8週目・12週目です。3か月後の測定が終わったら、四半期に1回に落として構いません。毎週見ても、打つ手は変わりません。
想定例:4週目に部門別を見た会社
架空の想定例です。実際の顧客事例ではなく、効果を保証するものでもありません。
E社は営業部8名と総務部4名の計12名に研修を行い、研修後2週目の利用者は11名でした。4週目の月初に管理者画面を見ると7名。担当者は「減ったな」と思いつつ、部門別を開きました。総務は4名のまま、営業は8名から3名に落ちていました。
営業部長に聞くと、3週目から大型案件の見積が重なり、全員が慣れた手順に戻っていたことが分かりました。部長は翌週、担当3名に「次の提案書の骨子は研修の型で出して、私が見る」と頼みました。8週目の利用者は10名。型の置き場のテンプレートは、研修終了時の4本から、営業部の「提案書の骨子」と「失注後の御礼メール」が加わって6本になっていました。
E社がやったのは、4週目に部門別を見て、部長が1件頼んだこと。それだけです。使わない理由のアンケートは取っていません。
よくある質問
管理者画面で、社員が何を入力したかまで見られますか?
製品と設定によっては、管理者が会話の内容を取得できる場合があります。ただ、当社はそれを前提にした運用をおすすめしていません。中身を見られていると受講者が思うと、試す人が減るためです。研修後の確認に使うのは、利用者数と部門別の内訳までで足ります。業務上、内容の確認が必要な場合は、社内ルールにその目的と範囲を明記したうえで、必要に応じて専門家にご確認ください。
利用率が落ちたら、研修が失敗だったということですか?
いいえ。研修後3週目あたりで利用者数が落ちるのは典型的な動きで、落ちること自体は失敗ではありません。見るべきは、どの部署で落ちたかです。特定の部署だけ止まっているなら、その部署の業務の繁忙や、試す業務が月1回しか来ないことが原因であることが多く、上司が1件頼むだけで戻る例が多いです。全部署で均等に落ちているなら、型の置き場や確認する人の問題を先に疑います。
個人の無料アカウントで研修を受けたので、ログがありません。どうすればいいですか?
管理者画面がない場合は、月1回の部内定例で「先月、業務で使った人」の挙手を数え、「研修の型を使った業務を1つ」を口頭で聞く形で代えられます。あわせて、型の置き場にあるテンプレートの本数を月末に数えておくと、自分の業務に広げた人がいるかが分かります。人数の精度はログより落ちますが、3か月の傾向を見るには足ります。
ログは広がりまで、深さは別の場所で
管理者画面で分かるのは、受講者のうち何人が開いたかと、どの部署が止まったか。何に使ったか、成果になったかは出てきません。だから、ログの人数にアンケート1問とテンプレートの本数を並べます。
落ちるのは3週目が典型で、見るのは4週目。落ちたら、理由を聞く前に部門別を見て、止まった部署の上司に1件頼む。それで戻らない人にだけ、理由を聞く。この順番なら、担当者の作業は月に30分ほどで収まる見込みです。
管理者画面のどの項目を見ればいいか、自社の契約プランで迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。