研修講師と事前に話しておくこと ── 打ち合わせで決める5項目
「特にお伝えすることはないんですが、よろしくお願いします」
研修が始まる2週間前、講師との事前の打ち合わせが、担当者のこの一言で始まることがあります。契約は済んで、日程も受講者も決まった。あとは当日を待つだけ、という感覚です。
ただ、この打ち合わせで決めておかないと、初回の冒頭が準備に消えるものがいくつかあります。題材にする業務と匿名化の範囲、受講者の経験の幅、使うツールとアカウント、各回のあいだに試すこと、研修のあとに何が残るか。この記事は、契約したあとの打ち合わせで決める5つの項目を書きます。研修会社の選び方や契約前の確認とは別の話で、ここでは「契約したあとの準備」だけを扱います。登場する場面は架空の想定例です。
契約後の打ち合わせは、講師が聞く場になる
契約前の打ち合わせでは、研修会社が説明し、自社が聞きます。契約後は向きが逆になります。講師が聞き、自社が答える。
講師が知らないのは、受講者が毎日どんな文書を作っていて、どこで手が止まっているかです。研修の時間数やカリキュラムの骨組みは契約の段階で決まっていても、演習の題材の細かさや、初回にどこまで進むかは、この打ち合わせで聞いた内容で変わります。
だから、出る人と持っていくものを先に決めます。出るのは研修の担当者に加えて、受講者の上司と、できれば受講者の代表1人。上司がいると、各回のあいだに業務で試す時間をその場で決められます。受講者がいると「その書類は実際にはこう作っています」という話が出て、題材が具体的になります。
持っていくのは、受講者の名簿と担当業務の一覧、扱いたい業務で使っている様式の空欄版、社内の生成AI利用ルール(あれば)。この3つがあると、1時間の打ち合わせで5項目を一通り決められます。
1. 題材にする業務と、匿名化の範囲
当社の演習は、すべて匿名サンプルの学習課題で行います。研修の中で御社の業務成果物を作ることはしません。だからこそ、サンプルが実際の業務にどれだけ似ているかが、研修のあとに自分の業務へ当てられるかどうかを左右します。
打ち合わせでは、まず題材にする業務を決めます。研修テーマが「問い合わせの返信」なら、どの種類の問い合わせか。「月次の報告」なら、誰に出す、どの様式の報告か。ここが粗いままだと、講師は一般的なサンプルを作るしかありません。
次に、講師に渡してよいものと、渡さないものを分けます。
| 渡してよいもの | 渡さないもの |
|---|---|
| 様式の空欄版、業務の流れの説明 | 顧客名・個人名が入ったファイル |
| よくある文面の言い回し(固有名詞を消したもの) | 金額・単価・契約条件の入った書類 |
| 困っている場面の説明(口頭でも可) | 人事評価や健康情報など個人の処遇に関わるもの |
消す作業は、自社の側で済ませてから渡します。消す基準は、社内ルールで決めている入力禁止の情報と同じにしておくと迷いません。まだ決まっていなければ、第3条と第8条だけ先に決めるに書いた最小構成から始めれば足ります。研修の題材を決める作業が、そのまま社内ルールの線引きの練習にもなります。
2. 受講者の経験の幅
同じクラスに、毎日生成AIを使っている人と、一度もログインしたことがない人が並ぶ。これは珍しくありません。講師が困るのは差があることではなく、差を初回まで知らないことです。
事前に受講者へ聞くのは3つで足ります。業務で生成AIを使ったことがあるか。あるなら、どのくらいの頻度で、何に使っているか。ないなら、使わない理由は何か(使い方が分からない、使ってよいか分からない、必要を感じない)。
この答えが打ち合わせの前にそろっていると、講師は初回の進み方と、演習での組み合わせを決められます。慣れている人を隣に置くのか、あえて離すのか。使わない理由が「使ってよいか分からない」に集中しているなら、初回の冒頭で社内ルールの話を厚めにする。
人選の段階で、経験の幅をどう考えたかも講師に伝えます。名簿を業務から逆に引いたのか、手を挙げた人を集めたのか。選び方の考え方はAI研修に誰を出すかに書きました。
3. 使うツールとアカウント
ここが決まっていないと、初回の最初の30分が消えます。どの製品の、どのプランを使うか。全員が同じものを使うか。会社契約か、個人のアカウントか。決めておくことの中身は研修の前に決めるアカウントの話に書いたので、打ち合わせでは「決まったことを講師に伝える」と「初回までに確かめること」の2つに絞ります。
初回までに確かめるのは、全員がログインできるか、社内のネットワークや端末の設定でつながらないことがないか、の2点です。後者は情報システムの担当者に聞きます。対面なら会場の通信と電源、オンラインなら受講者が講師の画面と自分の作業画面を同時に見られるか、も確かめておきます。
当社はツールの導入代行をしていないので、契約や設定そのものは御社の側で進めていただくことになります。打ち合わせで講師が確かめるのは、初回の時点で全員が同じ画面を開ける状態になっているかどうかです。
4. 各回のあいだに試すこと
研修を何回かに分けて行うなら、回と回のあいだに、受講者が自分の業務で型を試す時間があります。研修の効果が出るかどうかは、ほぼここで決まります。
打ち合わせで決めるのは、受講者ごとに「どの業務で試すか」と「次の回に何を持ってくるか」です。試す業務は、受講者本人が毎週必ず触るものにします。月に1回しか出てこない業務を選ぶと、あいだの1週間に試す機会がありません。持ってくるものは、固有名詞を消した出力か、うまくいかなかった箇所の口頭の説明で十分です。
上司が打ち合わせに出ていると、ここが決まります。業務の中で試す時間を認めるのか、試した結果を誰が見るのか。これが決まっていないと、受講者は「試す時間がなかった」で次の回に来ます。研修が受けっぱなしで終わる理由の1つ目に、翌日どの仕事で使うかが決まっていないことを挙げたのはAI研修が「受けっぱなし」で終わる本当の理由でした。打ち合わせは、それを研修の前に決める場です。
5. 研修のあとに何が残るか
最後に、研修が終わったとき手元に何が残るかを確かめます。契約書に書いてあっても、受け取る側の準備は別です。
当社の場合、研修のあとにお渡しするのは、匿名サンプルの演習で作ったテンプレートと手順書、受講者ごとの出欠・実訓練時間・課題・修了確認を記録した実施記録です。研修のあとには振り返り会もあります。研修の中で御社の業務成果物や改善計画を作って納品することはしません。
打ち合わせで決めるのは、受け取ったものをどこに置き、誰が手を入れていくかです。テンプレートを受講者の個人フォルダに散らばらせると、半年後には誰も開きません。部署の共有フォルダに置き場所を1つ決め、更新する担当を1人決める。その担当の置き方は研修後に社内で広げる人をどう置くかに書きました。振り返り会に誰が出るかも、このときに決めておくと日程が組みやすくなります。
打ち合わせのあと、初回までの1週間にやること
打ち合わせで決まったことは、その週のうちに1枚に書いて受講者に配ります。題材にする業務、使うツールとログインの確認日、各自が試す業務、研修後の置き場所。受講者が初回の前にこの1枚を読んでいるだけで、冒頭の説明が短くなります。
あわせて、受講者全員のログイン確認を初回の数日前に済ませます。当日の朝に確かめると、つながらなかったときに打つ手がありません。上司は、受講者と一緒に「あいだに試す業務」を一度確認しておきます。
よくある質問
講師との事前の打ち合わせには、誰が出ればよいですか?
研修の担当者に加えて、受講者の上司と、できれば受講者の代表1人に出てもらう形を想定しています。上司がいると、各回のあいだに業務で試す時間や、試した結果を誰が見るかをその場で決められます。受講者がいると、題材にする業務の説明が具体的になります。全員がそろわない場合は、上司だけでも出てもらうと決められることが増えます。
研修の演習で、自社の実際の書類を使ってもらえますか?
当社の演習はすべて匿名サンプルの学習課題で行い、実際の書類をそのまま使うことはしません。その代わり、様式の空欄版や業務の流れ、固有名詞を消した文面の言い回しを打ち合わせで共有していただくと、実際の業務に近いサンプルで演習ができます。顧客名・金額・個人の処遇に関わる情報は、渡す前に自社の側で消してください。
受講者のAI経験に大きな差があります。クラスを分けるべきですか?
必ずしも分ける必要はありません。講師が困るのは差があることより、差を初回まで知らないことです。事前に、使ったことがあるか、どのくらいの頻度か、使わない理由は何かの3点を聞いておけば、進み方や演習での組み合わせを講師が調整できます。差の大きさが気になる場合は、その答えを持って打ち合わせで相談してください。
1時間の打ち合わせで、初回の中身が決まる
契約が済んだあとの打ち合わせは、手続きの確認に見えて、実際は研修の中身を決める場です。題材と匿名化の範囲、受講者の経験の幅、ツールとアカウント、各回のあいだに試すこと、研修のあとに残るもの。この5つを決めて持っていけば、初回は準備ではなく演習から始められます。
打ち合わせに何を持っていけばよいか、受講者への事前の質問をどう作るかで迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。