研修の前に受講者へ何を聞くか ── 事前アンケートの設問と、聞いても使わない設問
「研修の前に、受講者にアンケートを取っておきますね」。人事の担当者がそう言ってフォームを作ると、だいたい次のような設問が並びます。研修への期待度を5段階で。生成AIへの関心を5段階で。研修で学びたいことを自由に。回収率は9割を超え、担当者はひと安心します。
ところが、その結果を見て研修の中身が変わることは、ほとんどありません。期待度の平均が3.8でも4.2でも、演習の題材は同じです。「学びたいこと」の欄には「業務効率化」「基本的な使い方」と書かれていて、どの業務の話なのかが分かりません。
事前アンケートの設問は、答えによって研修の何かが変わるものだけに絞れます。研修の中身を変える設問と、聞いても使わない設問を分けて、結果を研修側とどう共有するかまでを書きます。設問の例はすべて架空の想定例です。
設問を足す前に、答えで何が変わるかを書く
アンケートを作るときの手順は単純です。設問を1つ書くたびに、その横に「この答えで研修の何が変わるか」を書きます。書けない設問は削ります。
この手順を踏むと、残る設問はかなり少なくなります。変わり得るのは、演習の題材、時間配分、受講者の組み分け、入力ルールの扱い方くらいだからです。逆に言えば、この4つのどれかに効く設問だけを聞けば足ります。
研修の中身を変える4つの設問
架空の想定例として、設問と、答えで変わることを並べます。
| 設問の例 | 答えの形 | 答えで変わること |
|---|---|---|
| 先週、30分以上かかった「書く・読む・要約する」仕事を2つ挙げてください | 業務名と、週あたりの回数 | 演習の題材と、扱う順番 |
| 生成AIを使ったことはありますか | 選択式(使ったことがない/個人で試した/業務で週1回以上) | 冒頭の時間配分と、受講者の組み分け |
| 業務で扱う情報に、次のものは含まれますか | 複数選択(顧客の個人情報、取引先との金額、社内限りの資料など) | 入力ルールの説明で使う例と、演習で避ける題材 |
| 最近、仕事の手が止まった場面を1つ書いてください | 自由記述(1〜2行) | 講師が使う例え話と、質疑で拾う話題 |
4つとも、答えが具体的になるように聞き方を工夫しています。順に見ていきます。
「時間を使っている業務」は、業務名と回数で聞く
「どの業務を効率化したいですか」と聞くと、答えは「資料作成」「メール」になります。間違いではありませんが、研修の題材にするには大きすぎます。
聞き方を「先週、30分以上かかった書く・読む・要約する仕事を2つ」に変えると、答えが具体的になります。「取引先別の月次売上コメント」「新人向けの作業手順の書き直し」。期間を先週に区切るのは、思い出しやすくするためです。30分という下限を置くのは、5分で終わる仕事が並ぶのを防ぐためです。
回数も一緒に聞きます。週に5回ある業務と月に1回の業務では、研修のあとに練習できる機会がまるで違います。研修のテーマを決める打ち合わせを済ませている場合は、その業務を担当しているかどうかを確かめる設問に置き換えても構いません。テーマの決め方は30分で研修テーマを1つに絞る手順に書きました。
この設問には、もうひとつ使い道があります。所要時間も一緒に書いてもらえば、研修前の基準値になります。研修の3か月後に同じ質問をすれば、比べる相手ができます。効果の測り方はAI研修の効果をどう測るかに書いています。
使用経験と、扱う情報の種類
使用経験は、自己評価で聞かないほうがよい設問です。「生成AIのスキルを5段階で」と聞くと、同じ程度に使っている人が2と4に分かれます。控えめな人と強気な人の差が出るだけで、研修の組み立てには使えません。「使ったことがない」「個人で試した」「業務で週1回以上」のように、行動で答えられる選択肢にします。
この答えで変わるのは、冒頭の時間配分と組み分けです。使ったことがない人が半分を超えるなら、最初の1時間は画面の操作に多めに割きます。経験者と未経験者を同じ組にするか分けるかも、この答えで決まります。人選の段階で偏りが見えていれば、AI研修に誰を出すかの考え方で調整する余地もあります。
扱う情報の種類は、見落とされやすいのに効く設問です。顧客の個人情報を日常的に扱う部署と、社内資料が中心の部署では、入力してよい情報の説明に使う例がまったく違います。回答の中に、社内ルールで決めていない種類の情報が出てきたら、研修より先にルールを決める必要があるという合図です。最初に決める範囲は第3条と第8条だけ先に決めるに書きました。
聞いても使わない設問
一方で、よく入っているのに研修に反映されない設問があります。
いちばん多いのが、期待度と関心度の5段階評価です。平均が出ても、その数字で演習の題材は変わりません。高ければ安心し、低ければ不安になるだけで、どちらにしても研修の中身はそのままです。
「研修で学びたいこと」を自由記述で聞く設問も、たいていは使われません。受講者は研修の中身を知らないので、「基本的な使い方」「業務での活用法」のような一般的な答えしか書けないからです。困っている場面を聞くほうが、ずっと材料になります。
「AIに仕事を奪われると思いますか」のような意識調査も、研修の中身とは別の話です。社内の空気を知りたいなら、研修とは切り離して聞いたほうが、答えも素直になります。受講できる日時の確認も大事ですが、それは日程調整の連絡で済ませ、アンケートには混ぜないほうが設問が短くなります。
回答を、研修側とどう共有するか
回答を研修会社に渡すなら、そのことを設問の冒頭に書いておきます。「回答は研修の内容を調整するために、研修の講師と共有します」。後から知らされると、受講者は次の回から書かなくなります。
共有するときは、集計表だけでなく自由記述の原文も渡します。演習の題材を選ぶうえで役に立つのは、平均値より「取引先別の月次売上コメント」のような具体的な一文です。ただし、自由記述には顧客名や取引先名が書かれていることがあります。渡す前に、人事の側で固有名詞を伏せてください。
誰が読むかも、先に決めておきます。上司が回答を読むと分かっていると、「個人のアカウントで業務に使っている」といった答えは出てきにくくなります。こうした答えこそ、研修でルールを扱ううえで必要な情報です。回答は人事と講師だけが読み、部署ごとの集計だけを上司に返す、という分け方が考えられます。
時期は、研修の2週間前に配って1週間前に締めるくらいが目安です。締めから研修まで間がないと、結果を見ても中身を変える時間がありません。
設問は5つまで、5分で終わる量に
最後に分量の話です。設問は5つまで、答えるのに5分で終わる量にします。上の4つに、研修のテーマにした業務を担当しているかどうかの確認を足せば、ちょうど5つです。
10問を超えるアンケートは、後半の自由記述が空欄で返ってきます。いちばん使いたい設問ほど後ろに置かれがちなので、具体的な答えが欲しい設問から先に並べてください。
よくある質問
事前アンケートは必ず取ったほうがよいですか?
研修のテーマと受講者が決まっていて、受講者の業務を担当者がよく知っている場合は、省いても研修は成り立ちます。取るなら、答えで研修の何かが変わる設問だけに絞ってください。期待度のような設問だけのアンケートなら、取らないほうが受講者の手間が減ります。迷う場合は、使用経験と扱う情報の種類の2問だけでも、研修の組み立てに使えます。
無記名にしたほうが本音が出ますか?
使用経験や個人アカウントの利用のように答えにくい設問は、無記名のほうが答えやすくなります。一方で、受講者の組み分けや演習の題材に使うには、誰の回答かが分かる必要があります。記名にしたうえで、回答を読むのは人事と講師だけで、上司には部署ごとの集計しか返さない、と冒頭に書いておく形が両立させやすいと考えています。
受講者の上司にもアンケートに答えてもらうべきですか?
受講者と同じ設問を上司に聞く必要はありません。上司に聞くなら、研修のあとに部下のどの業務が変わってほしいかを1問だけ聞くのが有効です。受講者が挙げた業務と上司の答えがずれている場合、研修の前にそのずれを話し合っておくと、研修後に試す業務が決まりやすくなります。上司の回答も受講者の回答と同じく、誰が読むかを先に伝えてから集めてください。
5問で、研修の中身は変えられる
事前アンケートは、受講者の気持ちを測るためではなく、研修の中身を決めるための材料集めです。時間を使っている業務、使用経験、扱う情報の種類、困っている場面。答えで何が変わるかを書けない設問は削り、回答は誰が読むかを先に伝えてから共有する。5問で足ります。
設問の組み立てや、研修側への渡し方で迷う段階でもご相談いただけます。