AIエージェント研修とは何か ── 生成AI研修との違いと、先に身につけること

「うちもそろそろ、AIエージェントの研修をやったほうがいいんでしょうか」。生成AIを社内で使い始めて半年ほどたった会社で、こういう一言が出てくることがあります。ニュースでエージェントという言葉を見かける回数が増えて、取り残されている気がする。その感覚は分かります。

ただ、この一言の手前で確かめておきたいことがあります。いま社内で、チャットに頼んで出てきた下書きを、誰がどう確かめているか。そこが決まっていないままエージェントに仕事を任せると、確かめる場面そのものが見えなくなります。

この記事では、AIエージェントとチャットでの使い方の違いを業務の場面で比べ、任せる前に身につけておく3つのことを書きます。先にお伝えしておくと、当社の研修はエージェントの構築を教える研修ではありません。業務を題材にした生成AIの活用研修です。その立場から、何が手前に要るのかを書きます。文中の業務の例は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

チャットとエージェントの違いは、途中を誰が見ているか

チャットで生成AIを使うとき、人は1回ごとに頼み、1回ごとに出てきたものを読みます。メールの下書きを頼み、読んで、直して、送るのは自分です。間違いがあっても、送る前に人の目を一度通ります。

AIエージェントは、指示を受けて複数の手順を自分で進める仕組みです。「先月の問い合わせメールを読んで、未回答のものを一覧にして、回答の下書きを作って」と頼むと、メールを開く、読む、仕分ける、一覧を作る、下書きを書く、までを続けて進めます。設定によっては、送信や登録まで進めるものもあります。

違いは賢さより、途中を誰が見ているかにあります。チャットでは手順の一つひとつを人が見ています。エージェントでは、人が見るのはたいてい最後の結果だけです。途中で1通読み飛ばしていても、一覧の体裁が整っていれば気づきにくい。

エージェントに任せるほど、人の仕事は「書く」から「指示する」と「確かめる」に移ります。この2つがチャットの段階でできていない人に、確かめる場面が減る道具を渡すことになる。順番が逆になりやすいのは、ここです。

同じ業務で比べる(架空の想定例)

3つの業務で、チャットで使う場合とエージェントに任せる場合を並べます。以下は架空の想定例で、使うツールや設定によって動き方は変わります。

業務チャットで使う場合エージェントに任せる場合見落としが起きやすい所
請求書の照合(経理)請求書1枚の内容を貼り、発注書との違いを挙げさせるフォルダ内の請求書を順に開き、発注データと照合して差異の一覧を作らせる読み取れなかったPDFが、一覧から黙って抜ける
問い合わせの返信(顧客対応)1件の問い合わせを貼り、返信の下書きを作らせる受信箱の未回答を拾い、全件の下書きを作って下書きフォルダに入れさせる担当者が判断すべき1件にも、定型の返信がつく
競合の情報収集(営業・企画)調べたい観点を渡し、確認すべき項目を挙げさせる複数のサイトを巡回させ、要点を表にまとめさせる日付の古い情報が、新しい情報と同じ行に並ぶ

どの行も、エージェントの側が便利なのは確かです。手で20回貼っていた作業が、1回の指示で済みます。ただ、右端の列を見てください。チャットなら1件ずつ読む中で気づけたことが、一覧になった時点で見えにくくなります。

チャットで下書きを作る使い方と、エージェントに任せる使い方の対比。チャットは1件ごとに人が読み、エージェントは手順を続けて進めて人は結果だけを見る。下段に任せる前に身につける3つ
エージェントに任せるほど、人の仕事は書くことから、指示して確かめることに移ります。

先に身につけること1:指示を「終わりの条件」まで書く

チャットなら、指示が曖昧でも出てきたものを見て言い直せます。エージェントは、言い直す前に先へ進みます。だから指示には、何をするかに加えて、どこで止まるかを書く必要があります。

請求書の照合なら、「差異の一覧を作って」で終わらせません。「読み取れなかった請求書はファイル名を別の欄に書く」「金額が一致しないものは修正せず、差額だけ書く」「一覧を作ったところで止めて、取引先への連絡はしない」まで書きます。最後の1行がないと、気の利く仕組みほど先回りします。

業務で使う指示の型は、目的・材料・形式・条件の4つを埋める形で業務で使うプロンプトの型に書きました。エージェントに渡す指示も、この4つに「止まる場所」を足したものだと考えると整理しやすくなります。チャットで4つを毎回埋められる人は、エージェントへの指示でもそれほど迷いません。

先に身につけること2:途中ではなく、結果の側で確かめる

エージェントが進めた途中の手順を、人が全部見直すのは現実的ではありません。それをやるなら、最初から自分でやったほうが早い。確かめるのは結果の側です。

見る場所は、チャットの出力を確かめるときと同じです。数字、固有名詞、引用、日付。この4か所を先に見る方法はAIの出力をどう確認するかに書いています。エージェントの場合は、これに件数の突き合わせが加わります。請求書が42枚あったのに一覧が40行なら、2枚がどこかで落ちている。入力の件数と出力の件数を比べるだけで、黙って抜けたものに気づけます。

もう1つは、エージェントに「やらなかったこと」を書かせることです。読めなかったファイル、判断に迷った件、条件に当てはまらず飛ばした件。これを結果と一緒に出させると、人が確かめる場所が絞れます。確かめる場所が絞れないなら、その業務はまだチャットで1件ずつ回したほうが安全です。

先に身につけること3:任せてよい範囲の線を引く

エージェントに任せる範囲は、動詞で線を引くと決めやすくなります。

読む、探す、まとめる、下書きを書く。ここまでは、間違っても人が直せば済みます。送る、消す、登録する、支払う、権限を変える。ここから先は、一度実行すると取り消しにくい。社外にメールが出る、台帳の数字が書き換わる、ファイルが消える。手前側の動詞だけを任せ、奥側は人が最後のボタンを押す。最初はこの線で足ります。

あわせて決めるのが、エージェントに何を見せるかです。チャットなら、人が貼ったものしかAIは読みません。エージェントは、許可されたフォルダや受信箱を自分で開きます。人事評価のファイルや取引先との契約書が同じ場所にあれば、それも読める範囲に入ります。

入力してはいけない情報の決め方は社内ルールは第3条と第8条だけ先に決めるに、会社契約のアカウントで確かめることは研修の前に決めるアカウントの話に書きました。エージェントを使うなら、この2つは「決めておいたほうがよい」ことから「決めないと始められない」ことに変わります。

「AIエージェント研修」を比べるときに見ること

「AIエージェント研修」という名前の講座は、中身の幅が広いのが実情です。大きく分けると、エージェントを作る側の研修と、使う側の研修があります。

作る側の研修は、業務の手順をツールの上に組み立てる、社内のデータやシステムとつなぐ、といった内容が中心です。受講者にはシステム担当者やエンジニアが想定され、開発環境や社内システムの権限が前提になることが多い。使う側の研修は、提供されているエージェント機能を業務の中でどう頼み、どう確かめるかが中心になります。

費用を比べる前に、見積がどちらを想定しているかを確かめてください。受講者は誰か。研修の中で社内のデータに接続するのか。研修後に誰が設定を保守するのか。この3つで、同じ名前の研修でも準備の重さがまったく違います。研修費用一般の比べ方はAI研修の費用相場と料金の見方にまとめていますが、エージェントの研修は形式の違いがさらに大きいので、時間あたりの単価だけで並べないほうが無難です。

当社の研修で扱うこと、扱わないこと

当社の研修は、エージェントの構築や設定を教えるものではありません。社内システムとの連携や、AIツールの導入・設定の代行も行っていません。エージェントを作れる人を社内に育てたいという目的なら、開発者向けの講座やツール提供元の教材のほうが合います。

扱うのは、ここまでに書いた手前の部分です。基礎コースには、指示の組み立て方と、出力を評価して直すサイクル、入力してはいけない情報の線引きが入っています。実践コースでは、AIがやることと人が必ず確認することを分けた業務フローの考え方を扱います。演習はすべて匿名サンプルの学習課題で行います。

チャットの段階で、指示が書けて、結果を確かめられて、任せる範囲の線が引けている人は、エージェントの機能が社内に入ってきたときに、どこまで任せるかを自分で判断できます。当社の研修は、その判断の土台をつくる側の研修です。

よくある質問

AIエージェント研修の費用はどのくらいかかりますか?

作る側の研修か使う側の研修か、受講者が誰か、研修の中で社内のデータやシステムに接続するかで大きく変わるため、一律の目安は出しにくいのが実情です。見積を比べる前に、想定している受講者と準備の範囲を確かめることをおすすめします。なお当社はエージェントの構築研修を提供しておらず、公開しているのは生成AIの活用研修の定価です。

生成AIをまだ使っていない会社が、エージェントから始めてもよいですか?

始めること自体はできますが、チャットで下書きを頼み、出てきたものを確かめる経験がないまま任せると、どこを確かめればよいかが分からない状態になりやすいです。まずチャットで指示の型と確認の手順を身につけ、読む・まとめる・下書きを書くまでの業務から任せる範囲を広げていく順番のほうが、つまずく場所が少なくなります。

AI SkillPath の研修でAIエージェントの作り方は学べますか?

学べません。当社の研修は業務を題材にした生成AIの活用研修で、エージェントの構築や設定、社内システムとの連携は扱っていません。扱うのは、エージェントに任せる前提になる指示の書き方、出力の確かめ方、AIがやることと人が確認することの分け方です。構築を学びたい場合は、開発者向けの講座やツール提供元の教材が向いています。

任せる範囲は、確かめられる範囲まで

AIエージェントは、チャットの延長というより、人の仕事を「書く」から「指示する」と「確かめる」に移す道具です。先に要るのは、終わりの条件まで書いた指示と、結果の側で確かめる習慣と、送る・消す・登録するの手前で止める線引きです。この3つがチャットでできていれば、エージェントの機能が使える環境になったときに、任せる範囲を自分たちで決められます。

自社でどこまでをAIに任せるか、まだ整理がついていない段階でもご相談ください。