業務で使うプロンプトの型 ── 4つの要素を埋めるだけで、出力が安定する
「プロンプトのコツ100選」。研修の相談で、印刷したものを見せられることがあります。配ったけれど誰も使っていない、という話とセットです。
正直に言うと、業務で使うプロンプトの型は1つあれば足ります。誰として、何を材料に、どんな形で出すか、守る条件。この4つを埋めるだけです。世の中で語られるコツの大半は、この4つのどれかの言い換えです。
この記事では、4要素の埋め方を「悪い指示」と「良い指示」を並べて説明します。打ち込む文章はそのまま載せます。後半に、型を社内で配る方法と、思ったものが出ないときに疑う順番を置きました。登場する業務は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。
覚えることを減らすほど、出力は安定する
コツを50個教わった受講者は、1つも使いません。多すぎて選べないからです。地味ですが、覚える数を減らすほうが出力は安定します。
当社の研修で覚えてもらうのは、次の4要素だけです。
| 要素 | 書くこと | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 誰として | AIに担わせる立場と前提 | どの会社にも当てはまる一般論が返る |
| 何を材料に | 判断のもとになる事実・文書・数字 | 材料を勝手に想像して埋めてくる |
| どんな形で | 出力の形式、項目、分量 | 毎回ちがう体裁で返ってくる |
| 守る条件 | 書いてはいけないこと、語調、字数 | そのままでは使えない文章になる |
「誰として」は肩書きごっこではありません。読み手が社内か社外かで、同じ内容でも語調が変わります。指定しないと、AIは無難な中間を選びます。
例1:総務の社内通知文
まず、よく見る指示から。
来月からオフィスの席が変わるので、社内通知を書いて。
返ってくるのは、どの会社でも使えそうな文章です。日付も問い合わせ先も対象者も入っていません。結局、書き直しになります。
4要素を埋めると、こうなります。
あなたは総務部の担当者です。全社員に向けた社内通知を作ります。
【材料】10月6日(月)からフリーアドレスに移行。対象は本社3階の営業部・企画部の計42名。私物は10月3日(金)18時までにロッカーへ。固定席が必要な事情がある人は総務・田中まで9月30日までに申し出。
【形式】件名1行、本文400字以内、最後に「いつまでに何をするか」を箇条書き3点。
【条件】社内向けの敬体。理由の説明は2文まで。決まっていないことは書かない。
材料は箇条書きで構いません。走り書きのメモをそのまま貼っても動きます。ここでつまずく方が多いのですが、文章に整えてから渡す必要はありません。
例2:人事の研修アンケート(自由記述)の整理
自由記述を100件読むのは、誰の仕事でもないのに誰かがやっています。
このアンケートをまとめて。
「まとめて」は、AIにとって最も解釈の幅が広い言葉です。要約か、分類か、件数を数えるのか。指定しない限り、感想文に近いものが出てきます。
あなたは人事部で研修の企画を担当しています。受講後アンケートの自由記述を整理します。
【材料】以下に自由記述を1行1件で貼ります。(ここに貼付)
【形式】表を1つ。列は「分類」「件数」「代表的な記述を1件そのまま引用」。分類は6〜8個に収める。件数の多い順に並べる。
【条件】分類名は私が後から読んで意味が分かる言葉にする。1件が2つの分類にまたがる場合は、より強く書かれているほうに入れる。どの分類にも入らないものは「その他」にまとめ、最後の行に置く。
分類の粒度を指定しないと、3個になったり20個になったりします。「6〜8個」と数を切るのが、いちばん効きます。
例3:購買の見積比較
この見積を比較して。
見積書を3社ぶん渡して、これだけ。何の軸で比べるかを決めていないので、AIは金額の大小を並べて終わります。
あなたは購買担当です。社内の稟議に添える比較メモを作ります。
【材料】A社・B社・C社の見積書の内容を、以下に転記しました。(ここに貼付)
【形式】比較表を1つ。行は「初期費用」「月額」「保守の範囲」「納期」「解約条件」。列は3社。表の下に、判断が分かれる点を3行だけ書く。
【条件】見積書に書かれていない項目は「記載なし」と書く。推測で埋めない。どの社を選ぶべきかという結論は書かない。
「推測で埋めない」「書かれていない項目は『記載なし』と書く」。この2行があるかどうかで、稟議に出せるかが変わります。
長く書けば良くなる、わけではない
4要素を知った直後に起きる失敗が、プロンプトを長くしすぎることです。
条件を10個並べ、例文を3つ添え、禁止事項を書き連ねる。ここまでやると、AIは全部を同時には守れません。最初のほうに書いた条件から落ちていきます。
目安は、条件4つまで。それ以上あるなら、1回で頼んでいる仕事が多すぎます。分類と本文作成を分ければ、条件は自然に減ります。
長さより効くのは、材料の具体性です。条件を1行足すか、材料に日付と人数を1つ足すか。迷ったら後者を選んでください。
型を社内で配るときの置き場所と更新
型が個人の頭の中にあるうちは、その人が異動したら消えます。
置き場所は、全員が業務中に開いているツールの中にします。ファイルサーバーの奥に置くと、開くまでの手間で使われません。研修が受けっぱなしで終わる理由でも書いたとおり、置き場所の問題は定着の問題です。
| 決めること | 現実的な決め方 |
|---|---|
| 置き場所 | 業務中に開いているツールの中。1ファイルにまとめる |
| 書式 | 4要素の見出しと空欄だけ。完成品の例を2〜3件添える |
| 更新する人 | 部署ごとに1人。全社で1人にすると滞る |
| 更新の頻度 | 月1回まとめて。都度更新にすると版が分からなくなる |
| 追加の基準 | 同じ部署で3人以上が使った型だけ載せる |
追加の基準がないと、テンプレート集は肥大します。半年で80件になれば、100選の資料を自社で再生産したのと同じです。
入力してよい情報の範囲は、型と一緒に配ります。ルールの決め方は社内ルールは第3条と第8条だけ先に決めるにまとめました。
うまくいかないときに疑う順番
思ったものが出ないとき、言い回しから直し始める方が多いのですが、順番が逆です。上から順に疑ってください。
1. 材料が足りていないか。 AIは渡されていない事実を知りません。日付、人数、金額、相手の名前。出力に入っていないものは、入力にも入っていません。
2. 形を指定していないか。 「表で」「400字で」「項目は5つ」。形を決めないと、毎回ちがう体裁で返ります。ばらつくときは、言い回しではなく形式の指定を足します。
3. 一度に頼みすぎていないか。 分類して、要約して、通知文にして、件名も付ける。4つ頼むと、どれかが雑になります。1回1仕事に割ると、直したい箇所だけをやり直せます。
4. そもそもAIに向かない仕事か。 社内の暗黙の事情を踏まえた判断、責任の所在が関わる文章、金額の最終確認。ここは何度プロンプトを直しても安定しません。やめてよい領域です。
1から3で解決しないなら、4の可能性が高い。30分で研修テーマを1つに絞る手順では、向く業務と向かない業務の分け方を扱っています。
よくある質問
プロンプトは英語で書いたほうが精度が上がりますか?
業務で使う範囲では、日本語で問題ありません。英語にすると、材料として渡す社内文書も訳す必要が出て、手間が増えます。精度を左右しているのは言語ではなく、材料の具体性と形式の指定です。日本語のまま4要素を埋めるほうが、結果的に安定します。
部署ごとにプロンプトの型を変える必要はありますか?
4要素の枠組みは全社で共通にして、埋める中身を部署ごとに変える形をおすすめします。枠組みまで部署別にすると、異動のたびに覚え直しになります。共有するのは「よく使う材料の項目」と「よく使う出力形式」の2点で足ります。
研修ではプロンプトの練習だけをするのですか?
いいえ。当社の研修は、自社の業務を1つ選び、その業務でプロンプトの型を作り、出力を確認するところまでを演習にしています。プロンプト単体の練習は行いません。型が使われるかどうかは、業務に結び付いているかで決まるためです。
100個覚えるより、4つを毎回埋める
必要なのは、コツの量ではありません。誰として、何を材料に、どんな形で、どの条件を守るか。この4つを毎回埋める習慣のほうが、ずっと早く効きます。条件は4つまで。増えそうなら仕事を分ける。うまくいかないときは、材料、形式、量、向き不向きの順に疑う。
自社のどの業務から型を作るか整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。