人事・採用で生成AIを使える業務8選 ── 求人票から社内問い合わせまで、線引きつきで

人事部門から生成AIの相談を受けるとき、最初に確認するのは使い道ではありません。何を入力しないかのほうです。

人事が机の上に持っているものを並べると、理由が分かります。応募者の履歴書、社員の評価シート、給与台帳、健康診断の結果、休職の記録、懲戒の議事。どれも、社内でも閲覧が限られる情報です。経理や営業にも機密はありますが、人事の場合は「個人そのもの」が対象になります。だから使ってよい業務と使ってはいけない業務の線が、他部署より一本多く必要になります。

とはいえ、使えない部署ではありません。人事は文書量が多く、同じ説明を何十回も繰り返す仕事が並んでいます。線さえ引けば、効く場所ははっきりしています。

この記事では、人事・採用で使える8業務と、使ってはいけない業務を分けて書きます。記載している業務と進め方は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

人事で線を引くとき、基準は1つ

判断に迷ったとき、見るのは1点です。

その文章が、特定の個人の処遇を左右するか。

求人票は誰の処遇も左右しません。社内規程のFAQも同じです。一方、評価の文言、合否の判断、懲戒の文書は、特定の個人の処遇に直結します。前者は使い、後者は使わない。この1本で、ほとんどの場面は判断できます。

もう1つだけ補助線を引くなら、「本人の同意なしに集めた情報か」です。応募書類も健康情報も、採用や安全配慮という目的のために提供されたもので、AIに読ませる目的では提供されていません。

人事・採用で生成AIを使える8業務(想定例)

難易度は★1=すぐ試せる、★2=型を決めると安定する、★3=他部署との調整が要る、の目安です。

業務難易度AIに渡すもの人が確定すること
01 求人票の下書き★職務内容、必要な経験、勤務条件の箇条書き労働条件の表示が実際と一致しているか
02 スカウト文面★★募集職種の魅力と、想定する経験の条件誇張がないか。送信前に人が必ず読む
03 面接の質問案づくり★★評価したい観点(職種の要件)だけ質問が公正採用の考え方に反していないか
04 社内規程のFAQ化★★規程の条文と、過去に来た質問の類型条文との食い違いがないか。公開前に所管部署が確認
05 問い合わせ回答の下書き★質問の内容(氏名・所属は伏せる)個別事情に引きずられていないか
06 研修資料のたたき台★★学ばせたい内容の見出しと、対象者の職種社内の実際の手順や画面と合っているか
07 アンケート自由記述の分類★★★個人が特定できる記述を除いた本文分類の粒度と、少数意見を丸めていないか
08 社内通知文の作成★伝える事実、期限、問い合わせ先日付・対象範囲・窓口の3点

所要時間の短縮幅は、社内規程の整備状況や担当者の習熟度で変わります。効果を保証するものではありません。

8業務に共通しているのは、扱うのが「制度の説明」か「募集の説明」であって、特定の社員や応募者の評価ではないことです。

人事で生成AIを使える8業務と、使ってはいけない5領域を左右に分けた図。判断の基準は個人の処遇を左右するかどうか
左は制度と募集の説明、右は個人の処遇。線はここに引きます。

使ってはいけない業務

ここは、はっきり書きます。次の5つは、AIに任せない前提で設計してください。

  • 評価そのものの判定:本人の実績からA・B・Cを出させる、評価コメントを自動生成する。評価は人が説明責任を負う行為で、生成AIは根拠を説明できません
  • 合否の判断:書類選考の通過可否、面接の合否。選考に用いる仕組みは公平性の説明が求められる場面があり、判断の根拠が追えない形での利用は避けてください
  • 健康情報の扱い:健康診断結果、産業医の面談記録、休職や復職の診断書。要配慮個人情報にあたり、取り扱いの範囲が法令で限定されています
  • 懲戒に関わる文書:事実関係の調査メモ、弁明の記録、処分通知の文案。手続の正当性が争点になり得る文書です
  • 給与データ:個人別の支給額、賞与の査定表、昇給のシミュレーション

線を引く理由は「AIの精度が低いから」ではありません。精度が上がっても、判断の責任は人にあるからです。あとから「なぜこの評価になったのか」を本人に説明する場面で、「AIがそう出した」は通用しません。

判断に迷う文書は入力せず、法務か顧問社労士に確認する。この一文を社内ルールに入れておいてください。なお、ここに書いたことは一般的な検討材料であり、法的助言ではありません。個人情報保護法や自社の規程に合わせて調整のうえ、必要に応じて専門家にご確認ください。

応募者の情報は入力しない。代わりにどうするか

採用の現場で、いちばん入力したくなるのが応募書類です。「この職務経歴書を要約して」「この人の強みを3つ挙げて」。手間が一気に減るので、気持ちは分かります。

それでも入力しない理由は2つあります。

1つは、応募者が提出した目的と違うからです。職務経歴書は選考のために提出されたもので、外部サービスに入力するために提出されたものではありません。採用時の利用目的の通知に、その旨が含まれているかを確認してください。

もう1つは、選考の公平性です。要約の過程で落ちた情報が、合否に影響したかどうかを後から確かめられません。

代わりにできることは、3つあります。

  • 観点表を先に作る:職種ごとの評価観点と、それぞれの「よい回答」の例をAIと一緒に作っておく。使うのは応募者の情報ではなく、職種の要件です
  • 質問リストを作る:観点表から面接の質問案を出させる。面接官ごとに聞くことがばらつく問題は、これで小さくなります
  • 面接記録の書式を作る:観点ごとに記入欄を決めた記録用紙を作る。記録の中身をAIに入れるのではなく、記録の器を作らせます

要するに、応募者の情報ではなく「選考の設計」をAIに手伝わせる。この置き換えで、採用業務の手間はかなり減ります。

確定するのは、いつも人事の担当者

AIが作った文章を、そのまま社内に出さない。当たり前のようでいて、忙しい時期にいちばん崩れるところです。

確定の責任者を、文書の種類ごとに決めておいてください。

文書確定する人
求人票・スカウト文面採用担当(労働条件は労務担当が併せて確認)
社内規程のFAQ・問い合わせ回答規程の所管部署
社内通知文発信名義の部署の責任者
研修資料教育担当と、内容を持つ部署

特に求人票は、AIが「魅力的に」書こうとして条件を盛ることがあります。勤務時間、賃金の表示、就業場所。この3点は、原稿と求人媒体の入稿画面の両方で目視してください。

出力をそのまま使わない運用は、議事録でも経理でも同じです。決め方は議事録に生成AIを使うときの社内ルールと経理で生成AIを使える業務10選にも書いています。

社内ルールを文書にするとき

人事は、社内ルールを作る側でもあります。自部署の線引きを決めるついでに、全社のルールを整えてしまうのが効率的です。当社が配布している生成AI社内利用ルールひな形は、目的・適用範囲・入力禁止情報・承認が必要な用途・出力の取り扱い・記録・見直し・相談窓口の8条構成です。全部を一度に決めなくてよい進め方は、第3条と第8条だけ先に決めるで説明しています。

よくある質問

応募者の履歴書や職務経歴書を生成AIに要約させてもよいですか?

入力しない運用をおすすめします。応募書類は選考のために提出されたもので、外部サービスへの入力は提出時の目的と異なるためです。要約の過程で落ちた情報が合否に影響したかを後から確認できない点も理由になります。代わりに、職種の評価観点表や面接の質問案づくりにAIを使う形を想定しています。

人事評価のコメントを生成AIに書かせるのは問題がありますか?

評価そのものの判定と評価コメントの生成は、この記事では想定していません。評価は本人への説明責任を伴う行為で、「AIがそう出した」という説明は成り立たないためです。評価制度そのものの説明文や、評価者向け研修資料のたたき台づくりであれば、個人の処遇に触れないため使える範囲に入ります。

人事部門だけで研修を受けることはできますか?

当社の研修は部署単位でテーマを決めて実施できます。人事の場合、求人票と社内規程のFAQ化のように文書量が多く繰り返しの多い業務からテーマを選ぶ例を想定しています。使ってはいけない業務の線引きを研修の中で決める演習も含めることができます。

制度の説明に使い、個人の処遇には使わない

人事で生成AIが効くのは、求人票・FAQ・通知文のように「制度と募集を説明する文書」です。評価、合否、健康情報、懲戒、給与——個人の処遇を左右するものには使わない。応募者の情報を入れる代わりに、選考の設計をAIに手伝わせる。そして確定は必ず人事の担当者が行う。この4つが決まっていれば、人事は安心して使い始められます。

自部署のどこに線を引くか整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。