総務で生成AIを使える業務8選 ── 規程の差分説明から慶弔の文面まで、任せない業務と一緒に
「総務は何に使えるんでしょうか。うちは何でも屋なので」。研修の相談で、総務の方からこう聞かれることがあります。
何でも屋だからこそ、机の上には文書が積まれています。規程集、契約台帳、備品台帳、来客の予定表、慶弔の連絡、防災訓練の案内、社内からの問い合わせ。どれも文章で処理する仕事で、かつ、毎年ほぼ同じ文章を書いています。生成AIが向いているのは、この「去年も書いた文章」です。
ただし総務には、他部署にない持ち物があります。社員名簿、緊急連絡網、健康診断の対象者リスト。個人情報の塊です。それから就業規則。ここは使い方を間違えると、部署の信用に直接響きます。
この記事では、総務で使える8業務と、任せない業務を分けて書きます。記載している業務と進め方は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。
総務の線引きは、名簿と法的判断の2本
判断に迷ったときの基準を、先に置いておきます。
1本目は、その文書が名簿か、名簿から作るものか。社員の氏名・住所・連絡先が並ぶものは、入力しません。慶弔の連絡先リスト、健康診断の受診者一覧、社用車の運転者名簿も同じです。
2本目は、法的な判断が含まれるか。就業規則の改定が法令に合っているか、契約書の条項をどう解釈するか。ここはAIの出力を下書きにもしません。社労士や弁護士に確認する領域です。
この2本を外れる文書は、総務にはたくさんあります。そこから選びます。
総務で生成AIを使える8業務(想定例)
| 業務 | AIに渡すもの | 人が確定すること |
|---|---|---|
| 01 規程改定の差分説明 | 新旧対照表(条文のみ) | 説明が改定の趣旨と合っているか |
| 02 契約・リース・備品の更新一覧 | 台帳の契約名・相手先・期限の列 | 期限と金額を原本で照合 |
| 03 来客の案内文 | 最寄駅、受付の手順、駐車場の有無 | 受付の電話番号と入館手順 |
| 04 慶弔の文面 | 慶弔の種類と、相手との関係 | 宛名、続柄、宗派、送る判断そのもの |
| 05 防災訓練の案内と進行表 | 日時、集合場所、訓練の流れ | 避難経路と集合場所が現状と合うか |
| 06 総務宛て問い合わせのFAQ | 過去の問い合わせの類型と回答 | 手順が現在のルールと合っているか |
| 07 社外文書の校正 | 送る前の文書(社名・氏名は伏せる) | 校正で内容が変わっていないか |
| 08 年間行事の案内文の型 | 行事名と、毎年変わる項目の一覧 | 今年の日付と担当者 |
8業務に共通するのは、材料が総務の手元にすでにあることです。新しく集めなくていい。台帳、過去の案内文、問い合わせのメール。これを渡すだけで、去年と同じ文章を書く時間が減るケースが多いです。
社内通知の個別の文面の書き方は、業務で使うプロンプトの型で総務の例を使って説明しているので、ここでは繰り返しません。08はその型を年間行事に広げたものです。
01 規程改定の差分説明は、対照表を読まない人のために作る
規程を改定すると、総務は新旧対照表を作ります。これは正しい手順です。ただ、対照表を読む社員はほとんどいません。
社員が知りたいのは「自分に何が変わるか」です。そこで、対照表の条文だけをAIに渡して、「変わった点を、社員向けに3項目以内で」と頼みます。出てくる説明文を総務が読み、改定の趣旨とずれていないかを直す。対照表と説明文の両方を配れば、読む側は説明文だけを読み、細かく知りたい人は対照表に戻れます。
渡すのは条文だけです。改定の理由や社内事情は渡しません。それから、この説明文は「何が変わったか」の説明であって、「その改定が法令に合っているか」の確認ではありません。後者は、就業規則なら社労士に見てもらう領域で、AIには聞きません。
02 契約更新の一覧は、台帳のどの列を渡すかで決まる
複合機のリース、ウォーターサーバー、駐車場、保守契約、ドメインの更新。総務が持つ契約台帳は、期限が来て初めて思い出す構造になりがちです。
台帳から「契約名・相手先・更新期限・自動更新の有無」の4列だけを抜いてAIに渡し、「今後3か月に期限が来るものを期限順に。自動更新のものは解約通知の期限も併記」と頼みます。出てきた一覧と、相手先への確認文の下書きが、翌月の作業予定になります。
金額の列は渡さなくて済むことが多いです。渡さない列を決めるほうが、渡す列を決めるより先です。取引先の社名が入る台帳を外部サービスに入れてよいかは、社内ルールの第3条で決める話で、第3条と第8条だけ先に決めるに書きました。Excelの台帳そのものを整える作業はExcel作業を生成AIに任せるのほうが詳しいです。
04 慶弔の文面は、AIが書けて、AIが決められないものの典型
弔電の文面、取引先の社長就任のお祝い、社員のご家族へのお見舞い。急に必要になり、しかも間違えられない文書です。
文面そのものは、AIが得意です。宗派に合わせた言い回し、忌み言葉を避けた表現、社名を主語にした敬語。こうした約束事は、AIのほうが人より安定しています。
ただし決めるのは全部人です。誰に送るか、社長名か部署名か、金額はいくらか、そもそも送るか。それと、宛名と続柄。ここを間違えた慶弔の文書は、内容がどれだけ丁寧でも、取り返しがつきません。文面をAIに任せた分の時間を、宛名の確認に回す。この配分のほうが収まりがいいと考えています。
05 防災訓練の案内は、去年の案内を材料にする
年に1〜2回の防災訓練は、総務が案内を出し、当日の進行も仕切ります。去年の案内文と進行表がどこかに残っているはずです。
去年の案内文、今年の日時と集合場所、変えたい点(今年は安否確認アプリの操作を入れる、など)の3つを渡して、案内文と当日の進行表を一度に作らせます。出てきたものを、現在の避難経路図と突き合わせる。フロアの配置替えがあった年は、集合場所の記載が去年のままになっていることがあるので、ここだけは人が見ます。
短い節ですが、この業務は年間行事の型(08)の練習台として向いています。1回作れば、来年は日付を変えるだけになります。
任せない業務
任せない業務は4つです。
- 個人情報を含む名簿の作成・整理:社員名簿、緊急連絡網、健康診断の対象者リスト、家族の情報。並べ替えや整形が欲しくても、入力しない
- 就業規則の法的判断:改定案が労働基準法や関係法令に合うか。社労士の領域で、AIの出力は下書きにも使わない
- 株主総会・取締役会・登記に関わる法定書類:様式と手続の正確さが求められ、誤りの責任が重い
- 契約書の条項の解釈:総務が契約の窓口になっている会社は多いですが、解釈は法務か専門家に
任せない理由は、AIの精度ではありません。個人情報は「入れた時点で」問題になり、法的判断は「誰が判断したか」を説明できないと成り立たないからです。なお、ここに書いたことは一般的な検討材料であり、法的助言ではありません。必要に応じて専門家にご確認ください。
人事の線引きは総務と少し違い、「個人の処遇を左右するか」が軸になります。人事・採用で生成AIを使える業務8選に書いたので、総務と人事を兼ねている方は両方を見比べてください。
総務1〜2名の会社なら、研修より先にやることがある
正直に書くと、総務が1〜2名の会社では、当社の研修に出すより先にやったほうがいいことがあります。過去1年分の案内文と問い合わせメールを1つのフォルダに集めて、08の「年間行事の型」を自分で作る。これだけで、総務の文書仕事はかなり軽くなります。当社に頼まなくてできます。
研修の題材として総務が向いているのは、総務・経理・人事を合わせて5名以上いて、案内文や問い合わせ対応の担当が人によって違う、という会社です。担当ごとに文面がばらついていて、誰かが休むと止まる。ここは、型を部署で共有する練習に意味があります。当社の研修は部署単位で2〜15名程度を想定しているので、総務単独ではなく管理部門全体で1クラスにする形をよく提案しています。
社内ルールの雛形は生成AI社内利用ルールひな形として配布しています。総務がルールの所管になることが多いので、業務の選定と一緒に目を通しておくと、二度手間が減ります。
よくある質問
社員名簿の並べ替えや表記の統一だけでも、AIに入力してはいけませんか?
入力しない運用をおすすめします。並べ替えや整形が目的でも、氏名・住所・連絡先が外部サービスに渡る点は変わらないためです。表記の統一なら、名簿から氏名などを除いた列だけを渡すか、Excelの関数で処理する形を想定しています。線引きを「目的」ではなく「入力する情報」で決めておくと、迷いが減ります。名簿は総務の持ち物の中で、いちばん線を越えやすいものです。
就業規則の改定案をAIに作らせるのは問題がありますか?
改定後の条文を社員向けに説明する文章の下書きであれば、この記事で扱った範囲に入ります。改定案そのものの作成や、法令に合っているかの確認は、AIには任せない前提です。就業規則は労働基準法などの法令と直接関わるため、社労士等の専門家に確認する領域だと考えています。説明文の下書きでも、条文以外の社内事情は渡しません。
総務だけで研修を受けられますか?
部署単位で実施できます。ただ総務が1〜2名の会社では、総務・経理・人事を合わせた管理部門で1クラスにする形をよく提案しています。案内文や問い合わせ対応の型を部署で共有する練習は、担当が複数いるほうが演習として成り立つためです。当社の研修は2〜15名程度を想定しています。総務単独での実施も可能ですが、共有相手がいるほうが続きやすいと考えています。
去年も書いた文章から、始める
総務で生成AIが効くのは、規程の差分説明、契約更新の一覧、来客案内、慶弔の文面、防災訓練の案内、FAQ、校正、年間行事の型。どれも材料が手元にあり、去年も書いた文章です。名簿と法的判断には使わない。この2本の線を先に引いておけば、総務は安心して始められます。
自部署のどの文書から手をつけるか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。
自部署の業務に当てはめて候補を出すなら、部署と業務を選ぶだけのAIに任せられる業務の診断が使えます。AIに任せられる業務の上位3つと、任せない業務、研修テーマの案がその場で出ます(入力不要)。