広報・マーケティングで生成AIを使う ── SNS・メルマガ・リリースの下書きと、公開前に見る4か所

「SNSの投稿、AIに書かせたら早いんでしょうけど、炎上が怖くて」

広報やマーケティングの担当者からの相談は、たいていこの一文から始まります。怖がっているのは正しい。ただ、怖がる場所が少しずれています。炎上するのは、AIが下書きを書いたからではありません。事実と違うことや、言ってはいけない表現が、確認されずに外へ出たからです。

社外に出る文章は、社内文書と決定的に違う点が1つあります。取り消せない。社内通知なら「訂正します」で済みますが、プレスリリースは配信先の媒体に残り、SNSの投稿はスクリーンショットで残ります。だから広報の話は、書く手順より、公開前に何を見るかの手順のほうが長くなります。

生成AIに下書きさせて困らない7つの業務と、公開前に人が見る4か所、そして最初から書かせないほうがいい使い方を分けて書きます。業務と場面は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

下書きまでと、公開前の確認を、別の工程にする

広報・マーケティングで生成AIを使う5つの工程(材料を集める、AIが下書き、事実を確認、表現を確認、人が公開)と、最初からAIに書かせない5つの場面
AIが担うのは2番目だけです。3番目と4番目を、下書きを直した本人以外が見る形にします。

工程を分ける理由は単純で、書いた人は自分の文章の間違いを見つけにくいからです。AIの下書きを自分で直して、そのまま投稿ボタンを押す。この動線だと、確認の工程が存在しません。

下書きを出す人と、公開前に見る人を分ける。2人しかいない広報でも、順番を分けるだけで違います。「下書きは午前、確認は午後、別の画面で」。それだけでも、朝の勢いで出す事故は減るケースが多いです。

広報・マーケティングで下書きに使える7業務(想定例)

業務AIに渡すもの公開前に人が見るところ
01 SNS投稿の下書き(1テーマから3パターン)伝えたい事実1つ、媒体名、字数日付、商品名、価格
02 月間の投稿カレンダーの案今月の予定(発売日、イベント、休業日)予定の日付が実際と合っているか
03 メルマガの本文今回の要件、前回の件名と反応割引率、期限、リンク先
04 プレスリリースの構成と初稿発表する事実の箇条書き、発表日数字と固有名詞のすべて、社名の表記
05 ブログ記事からSNS・メルマガへの転用元の記事の本文切り出しで意味が変わっていないか
06 取材原稿・インタビューの整文文字起こし発言者本人の確認(本人の言葉として出る)
07 想定問答(発表後に来そうな質問と答え)発表の内容、過去の問い合わせの傾向答えの中身は担当部署が確定

このうち01と03は、社内に型があれば1日で試せます。04と06は、公開前の確認に時間がかかるので、下書きが速くなっても全体はそれほど縮みません。それでも04を入れているのは、リリースの「構成」で悩む時間が消えるからです。見出し、リード、本文、会社概要、問い合わせ先。この骨組みをAIに出させて、中身を人が埋める順番です。

07は地味ですが、効きます。発表のあとに営業や問い合わせ窓口へ来る質問を先に並べておくと、広報以外の部署が助かります。

指示の出し方は、業務で使うプロンプトの型の4要素で足ります。広報で特に効くのは「守る条件」で、媒体名と字数と「使わない言葉」をここに書きます。

公開前に見る4か所

下書きを読むとき、頭から通して読まないでください。通して読むと、文章がうまいぶん、間違いを読み飛ばします。見るのは4か所だけ、順番に。

見るもの何を疑うか
1 数字価格、割引率、日付、期限、人数。材料に「先着100名」がなければ、それは創作
2 固有名詞商品名、社名、人名、地名。全角半角の表記ゆれ、正式名称と略称の混在、存在しない型番
3 引用と「お客様の声」材料に入れていない声が出てきたら、全部消す
4 法令に触れそうな表現「効果」「治る」「No.1」「最安」「業界初」。専門家の確認へ回す

4番目については補足があります。AIは、法令に触れる表現を避けるようには書かれていません。むしろ「魅力的に」という指示に対して、「業界最高水準」「驚きの効果」を自然に足してきます。指示の段階で「効果・No.1・最安・初、を使わない」と条件に入れる。それでも出てきたときのために、公開前の確認を残す。二重にします。

この種の表現が薬機法や景品表示法に触れるかどうかは、当社では判断できません。当社は研修会社で、法務の専門家ではないからです。社内の法務か、顧問の弁護士など専門家に見てもらう前提にしてください。

この4か所の見方は、広報に限った話ではありません。社内文書も含めて、受け取った側が数字・固有名詞・引用・日付をどの順番で見るかは、AIの出力をどう確認するかにまとめています。

最初から書かせない使い方

炎上しやすい使い方は、だいたい次のどれかです。

時事ネタに乗る投稿。 災害、事件、訃報、話題のニュース。AIは文脈の重さを測れません。「今日のニュースに触れた投稿を」と頼むと、形式は整った、けれど当事者には耐えがたい文章が出ることがあります。時事に触れる投稿は、人が最初から書きます。予約投稿にも同じ注意が要ります。何日も前に予約した明るい投稿が、災害の当日に流れる。これは起こり得ます。

謝罪文と、不祥事の説明。 広報の中でも、もっとも人が書くべき文章です。AIが器用に書くぶん、責任の範囲を勝手に広げたり、確定していない原因を書いたりします。同じことは顧客対応でも起きるので、問い合わせ対応の返信文を生成AIでに書きました。

他社との比較。 「A社より安い」「他社製品にはない」。比較そのものが禁じられているわけではありませんが、根拠の示し方に決まりがあります。AIは根拠を持っていません。

お客様の声、口コミ、体験談の創作。 頼んでいなくても、「利用者の声」を勝手に足してくることがあります。存在しない声を載せれば、それは事実と違う表示です。材料にない声は、1件残らず消してください。

生成画像を「実物」として出す。 商品写真、店舗の写真、社員の写真を生成画像で置き換えて、実物のように見せる。文章と同じで、事実と違う表示になります。イメージだと分かる用途に限ります。

5つに共通しているのは、AIの精度の問題ではないことです。精度が上がっても、判断の責任は会社にあります。

入力する材料の、時点の線

未発表の商品情報、発売前の価格、取材先の個人情報。広報が扱う材料は、公開前は機密で、公開後は公開情報です。同じ文書でも、時点で扱いが変わります。

入力してよい範囲の決め方は社内ルールは第3条と第8条だけ先に決めるに書いたので、ここでは繰り返しません。広報として1つだけ足すなら、「発表日より前のリリース本文は、会社が契約したサービス以外に入れない」という日付の線を、社内ルールに1行入れておく形が分かりやすいと考えています。

研修に向く会社と、向かない会社

正直に書くと、広報が1人か2人しかいない会社では、研修より先にやることがあります。公開前に見る4か所を1枚にして、投稿画面の横に貼る。それで大半の事故は防げます。当社に頼む前に、まずそれをやってください、と相談の場で言うこともあります。

研修が向くのは、SNS・メルマガ・リリースを複数の部署や人が書いていて、確認の線が人によって違う会社です。営業がSNSを書き、総務がメルマガを出し、社長がリリースを書く。この状態だと、線を揃えるところに研修の意味があります。

当社は広報の代行はしませんし、投稿の運用も引き受けません。研修で作るのは、自社の型と、公開前の確認の順番までです。

よくある質問

AIが書いたSNS投稿だと、読者に分かりませんか?

分かることがあります。理由はAIの文体というより、事実が薄いからです。日付・場所・商品名・担当者の言葉のような具体がない投稿は、人が書いてもAIが書いても読まれません。材料を具体的に渡し、公開前に人が固有名詞と数字を確かめる運用なら、文体の問題はほとんど残らないと考えています。逆に、材料が薄いまま出す投稿は、誰が書いても同じように読み飛ばされます。

プレスリリースの初稿をAIに書かせて問題ありませんか?

構成と初稿までなら問題ないと考えています。ただし、数字と固有名詞は全部、発表する事実の箇条書きと突き合わせて確かめてください。法令に関わる表現(効果、No.1、最安など)は、社内の法務や顧問の専門家の確認を前提にします。発表日前のリリース本文は機密なので、入力してよいサービスかどうかを先に社内ルールで決めておく必要があります。

広報の研修は何人から受けられますか?

実践コースは2名から受けられます。ただ、広報担当だけで2名集まる会社は多くないので、営業やカスタマーサポートなど、社外向けの文章を書く部署と合同で受ける形を想定しています。公開前の確認の線を部署をまたいで揃えることが目的なら、合同のほうが収まりがいいです。広報担当だけで受けたい場合は、その旨を相談の初回に伝えてください。

下書きは任せる。公開は人が押す

広報で生成AIが効くのは、SNS・メルマガ・リリースの下書きと、転用と、想定問答です。公開前に見るのは、数字、固有名詞、引用、法令に触れる表現の4か所。時事、謝罪、他社比較、声の創作、生成画像の実物扱いは、最初から書かせない。この線が引けていれば、下書きの速さは安心して使えます。

自社の投稿やリリースの、どこに線を引くか整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。

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