英文メールと翻訳に生成AIを使う ── 海外の取引先とのやり取りで、人が確かめる3点

「英語はそんなに得意じゃないので」。そう言いながら、海外の仕入先から届いたメールを翻訳サイトに貼り、出てきた日本語を読み、返事を日本語で書いてまた英語に直す。輸入品を扱う会社の購買担当や、海外の代理店とやり取りする営業事務で、よく聞く進め方です。

生成AIを使うと、この往復はかなり楽になります。届いた英文を要点つきで読めるようになり、返信も「丁寧に、でも短く」のような注文をつけて書けます。翻訳サイトとの違いは、これまでの経緯を踏まえた文が出やすいことです。

ただ、楽になったぶん、送る前の確認が抜けやすくなります。英文として自然に見えるので、どこが危ないのかが英語の得意でない人には見えません。この記事では、そういう担当者が人の目で確かめる場所を3点に絞って書きます。登場する会社や取引は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

文が自然になるほど、間違いは見えにくくなる

翻訳サイトの訳文は、少しぎこちないぶん、機械が訳したものだと書き手にも読み手にも分かります。生成AIの英文は、ビジネスメールとしてそのまま通る形で出てきます。英語が得意でない担当者にとって、自然な英文は正しい英文に見えます。

けれども、英文として自然であることと、こちらの意図どおりであることは別の話です。間違いは文法ではなく中身に出ます。日付の並びが相手の国の慣習と逆になっている。断ったつもりの文が、引き受けた文として読める。相手の敬称が違う。どれも英文としては自然なので、読み返しても気づきません。

確かめる場所を先に決めておけば、英語力に関係なく見られます。全文を英語で精読する必要はありません。

使う場面は、読む・返す・訳すの3つ

海外の取引先とのやり取りで生成AIを使う場面は、おおよそ次の3つです。

場面AIに頼むこと人が先に持っておく材料
届いた英文を読む要点と、相手が求めている返事を日本語で3行にこれまでのやり取り
返信を書く日本語で書いた返事の骨子を、相手との関係に合った英文に回答の中身(納期、数量、金額)
見積・仕様書を訳す自社見積の英訳、相手の仕様書の和訳品名・型番・単位の対応表

どの場面でも、AIに中身を決めさせないことが前提です。納期を何日にするか、値引きに応じるか。それは担当者と上長が日本語で決め、AIには「この中身を英語にする」仕事だけを渡します。中身を渡さずに「いい感じに返信して」と頼むと、AIは文脈からそれらしい中身を補います。その補われた中身が、後で書く「約束になってしまう表現」の入り口になります。

指示の組み立て方は業務で使うプロンプトの型と同じで、材料の欄に回答の中身を必ず入れます。

英文メールと翻訳に生成AIを使うときに人が確かめる3点。数字と単位・日付の書き方、約束になってしまう表現、相手の名前と敬称。それぞれの見る場所と確かめ方を3枚のカードで並べた図
英語が得意でなくても見られる3か所です。全文を英語で読み直す前に、ここを先に確かめます。

確かめる1:数字と単位、日付の書き方

最初に見るのは数字です。英語が読めなくても、数字は読めます。

日付は国によって並びが違います。「10/11/2026」は、アメリカ式なら10月11日、イギリスや欧州の多くの国では11月10日と読まれます。AIは文脈から並びを選びますが、相手がどちらで読むかまでは知りません。納期や支払期日のように取り違えると困る日付は、「October 11, 2026」のように月を英単語で書くよう指示しておくと、読み違いが起きにくくなります。曜日を添えるのも効きます。

金額は、通貨と何を含むかを見ます。「100,000」が円なのかドルなのか。欧州の一部では小数点とカンマの使い方が逆で、「1.000,50」のように書きます。相手の見積をAIに和訳させたときは、ここが入れ替わっていないかを原文と並べて確かめます。日本の見積の「税込」「送料別」は、そのまま英語に置き換えても伝わりにくいので、何を含む金額なのかを一文で添えるほうが確かです。

単位も同じです。インチとミリ、ポンドとキログラム、「pcs」「sets」「cartons」の違い。仕様書の和訳で「1 set」が「1個」と訳されると、数量が何倍も違ってきます。品名・型番・単位は社内で対応表を作り、AIに毎回渡します。対応表があると、訳のぶれがかなり減ることを見込んでいます。

確かめ方は単純で、原文と訳文の数字を1つずつ丸で囲んで突き合わせるだけです。英文を読む必要はありません。

確かめる2:約束になってしまう表現

2つ目は、英語が得意でない人ほど気づきにくい場所です。

生成AIは、丁寧で前向きな文を書く傾向があります。日本語で「検討します」と書いた骨子が、手配を引き受けた文になって出てくることがあります。「できるだけ早く出荷します」が「今月末までに出荷します」という意味の英文になり、骨子になかった期限が加わることもあります。相手にとってはありがたい文で、相手はそれを約束として受け取ります。

気をつける語は、おおよそ決まっています。「will」「guarantee」「confirm」「agree」「accept」のような、引き受けや合意を示す語。「by」「within」のように期限を区切る語。「free of charge」「no additional cost」のように費用を持つ語。これが出てきたら、その文だけを日本語に訳し戻して、骨子と同じことを言っているかを確かめます。

訳し戻しは、AIに「この英文を、意味を変えずに日本語に直訳して」と頼めば済みます。返信を書かせたのと同じ会話で頼むと、自分が書いた英文に寄せて訳すことがあるので、新しい会話で頼むほうが確かです。

値引き、納期の確約、不良品の交換や返金に触れる返信は、短くても上長が読んでから送る運用にしておきます。英文の出来ではなく、会社として引き受けてよいかの判断だからです。

確かめる3:相手の名前と敬称

3つ目は名前です。社名や人名を間違えると、中身が正しくても信用を落とします。

英語圏の名前は、どちらが名でどちらが姓か、日本人には分かりにくいことがあります。AIは署名欄から名前を拾いますが、姓と名を取り違えたり、性別の分からない相手に「Mr.」や「Ms.」を当て推量でつけたりします。相手が署名で名乗っている形をそのまま使い、迷うときは敬称をつけずにフルネームで呼びかける形にしておくのが無難です。

社名も「Inc.」「Ltd.」「GmbH」のような部分まで含めて、相手の署名や見積書と一字ずつ合わせます。自社側の署名、つまり担当者の英語表記と肩書は、毎回AIに作らせず固定の署名を使います。肩書の訳がメールごとに変わると、相手はどれが正しいのか迷います。

文中に出てくる第三者、たとえば相手の上司や物流会社の担当者の名前も、過去のメールの表記と照らします。似た名前を混ぜやすいのは、AIの弱いところの1つです。

入力する前に、社内ルールを確かめる

英文メールには、取引先の社名や担当者名、金額、仕様が入ります。見積書や仕様書には、取引先との秘密保持契約の対象になる情報が含まれることもあります。社内の生成AIの利用ルールで、取引先の情報や見積の金額がどの区分に入っているかを先に確かめてください。ルールの決め方は第3条と第8条だけ先に決めるに書いています。

入力が認められていない場合でも、使い道は残ります。社名や金額を記号に置き換えて文の形だけを作らせ、最後に人が実際の値を入れる方法です。英文の骨組みを作る仕事は、固有の情報がなくても成り立ちます。会社が契約したサービスで、入力が学習に使われない設定になっているかも、あわせて確かめておきます。

契約書の英訳や和訳は、この記事の範囲から外しています。条項の読み合わせの考え方は契約書の読み合わせに生成AIを使うで扱っていて、英文契約は最初から専門家に見てもらう対象に入れています。

3点のあとに、全体を日本語で読む

3点を確かめたら、最後に、訳し戻した日本語で全体を一度読みます。ここで見るのは、骨子に書いていないことが増えていないか、骨子に書いたことが抜けていないか、の2つだけです。

相手が英語を母語としない場合は、もう1つ足します。AIの英文は長く、言い回しが凝りがちです。相手も翻訳ツールで読んでいるかもしれません。「1文を短く、平易な英語で」と指示しておくと、相手の側で誤訳が起きにくくなります。

社内文書一般の確認の順番は、AIの出力をどう確認するかに書きました。英文メールの場合は、そこにある数字・日付と固有名詞に、約束の表現を加えた3点になります。どの点も、英語の読み書きの力ではなく、元の材料と突き合わせる手間で確かめられます。

よくある質問

翻訳サイトと生成AIは、どちらを使えばよいですか?

仕様書の用語を1語ずつ正確に置き換えたい場面では、翻訳サイトが向くこともあります。これまでの経緯を踏まえた返信や、要点を日本語でまとめる作業は、生成AIのほうが向いているケースが多いです。どちらを使っても、数字と日付、約束になる表現、相手の名前の3点は人が確かめます。会社として使ってよいサービスが決まっている場合は、その範囲で選んでください。

AIで書いた英文だと、相手に分かってしまいますか?

分かることはあります。生成AIの英文は丁寧すぎたり長すぎたりしがちで、慣れた相手には文体で伝わります。ただ、問題になるのは分かるかどうかより、こちらが約束していない内容が入っていないかです。「1文を短く、平易な英語で」と指示し、訳し戻しで中身を確かめておけば、取引の上で困ることは少ないと考えています。

英文メールは研修のテーマになりますか?

社外メールの業務の一部として扱えます。返事の中身を日本語の骨子で決め、英文にし、3点を確かめて訳し戻す、という流れを、匿名サンプルのメールと見積で演習する形を想定しています。御社の実際の取引先とのメールを研修に持ち込むことはしません。海外とのやり取りが毎日ある部署なら、最初のテーマに向いています。毎日でなくても、見積や仕様書の訳が月に何度も出る部署なら、同じ流れを当てはめられます。

中身は日本語で決め、英語はAIに、3点は人が見る

英語が得意でない担当者が生成AIで英文メールを書くとき、分担はこう決めておきます。返事の中身は日本語で決める。英文にする仕事はAIに渡す。数字と日付、約束になる表現、相手の名前の3点は人が確かめる。値引きや納期の確約に触れる返信は上長が読む。品名・型番・単位の対応表と固定の署名は、最初に一度だけ作っておく。

海外とのやり取りのどこから手をつけるか整理したい段階でも、お気軽にご相談ください。

部署と業務を選ぶだけのAIに任せられる業務の診断には、海外取引や貿易事務という部署の区分はありませんが、どの部署にもある業務の「社外メール」から候補を出せます。AIに任せられる業務の上位3つと、任せない業務、研修テーマの案がその場で出ます(入力不要)。