経営企画・管理部門の報告書と会議資料に生成AIを使う ── 数字は表計算ソフト、理由は人が書く
「経営会議の資料を作るのに、月の最初の1週間が全部消えます」。経営企画や管理部門の方から、この言葉をよく聞きます。各部署から上がってきた報告を1枚に整え、前回の持ち越し課題を確認し、社長に見せる順番に並べ替える。数字は表計算ソフトに揃っているのに、文章にする工程で時間が溶けていく。
生成AIが向いているのは、この「数字を文章にする」工程です。数字を出す工程ではありません。ここを取り違えると、経営会議に間違った前年比が出ます。
この記事では、経営企画・管理部門の報告書と会議資料のうち、生成AIに任せられる6つの工程と、任せない2つの線引きを書きます。経理部門の月次報告そのものは経理で生成AIを使える業務10選で扱ったので、ここでは各部署の報告を経営会議用に束ねる側の仕事に絞ります。登場する会社と数字は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。
数字は表計算ソフトが出す。AIは文章にするだけ
先に線引きを書きます。
生成AIに、売上の前年比や予算の達成率を計算させない。計算は表計算ソフトで済ませて、出た数字をAIに渡します。AIは文章を作る仕組みで、計算はときどき間違えます。間違えたときの見た目が正しい数字とまったく同じなので、見つけにくい。経営会議で「この達成率、おかしくないか」と社長に指摘されてから気づく、という場面は避けたいところです。
渡し方は単純です。表計算ソフトから、部署名・指標・今月の実績・予算・差異の5列をそのまま貼る。AIには「この表の数字を変えずに、差異の大きい順に3行で説明する」と頼む。数字を書き換えていないかは、出てきた文章と元の表を並べて人が見ます。
もうひとつ。判断の理由は人が書きます。「なぜ設備投資を今期に前倒しするのか」「なぜこの部署の目標を下げるのか」。AIに書かせると、もっともらしい理由が付きます。付きすぎます。読んだ側は理由が書いてあると納得しますが、その理由は経営者の頭の中から出たものではない。稟議書の「理由」欄と、経営会議の「提案」欄は、人が自分の言葉で書く場所として残します。
任せられる6つの工程(想定例)
以下は架空の想定例です。実際の顧客事例でも実測値でもありません。
| 工程 | いまの進め方 | 生成AIを使った進め方 |
|---|---|---|
| 01 各部署の報告を1枚に束ねる | 5部署の報告書を読み、文体を揃えて書き直す | 5部署分を貼り、「決定が必要なこと」「報告のみ」の2つに分けて要約させる。人が抜けを確認する |
| 02 全社の差異を3行にする | 経理から来た部門別のコメントを読み、経営者向けに書き直す | 部門別の表とコメントを貼り、差異の大きい順に全社3行の下書きを作らせる。理由は人が書き足す |
| 03 会議の論点整理(議題案) | 前回の議事録と今月の報告から、議題を頭の中で組む | 前回の持ち越し課題と今月の報告を渡し、議題の候補と所要時間の案を出させる |
| 04 KPIの定義文 | 指標の意味が担当者ごとに違い、会議で毎回説明する | 指標名・計算式・データの出所を渡し、1指標100字の定義文を揃えさせる |
| 05 稟議書の下書き | 白紙から書き、様式の項目に合わせて直す | 目的・金額・期限・代替案のメモを渡し、様式の項目に沿った下書きを作らせる。理由の欄は空欄で受け取る |
| 06 会議後の決定事項の通知文 | 議事録を要約して部署ごとに送る | 決定事項と担当・期限を渡し、部署別の通知文を一括で作らせる |
01が、いちばん時間が減りやすい工程だと考えています。5部署の報告書は、書式も文体も熱量もばらばらです。それを「決定が必要」と「報告のみ」の2つに分けるだけで、経営会議の前半を決定に使えるようになる。会議の質が変わるのは、要約の速さではなく、この仕分けのほうです。
04は地味ですが、効きます。「稼働率」が部署によって分母が違う、という話は、どの会社にもあります。定義文を揃える作業は、AIを使わなくてもできるのですが、誰もやらない。100字の定義を20指標分、1時間で下書きが出るなら、やる人が現れます。
05の稟議書は、理由の欄を空欄で受け取る、というところに線があります。様式の項目を埋める作業と、判断の理由を書く作業は別のものです。前者は下書きで構いませんが、後者は起案者の仕事です。
議題案は、AIより前に「前回の持ち越し」を揃える
03について補足します。
議題案をAIに出させると、今月の報告から議題が並びます。ただ、経営会議で本当に扱うべきなのは、前回「来月までに確認」となった課題のほうであることが多い。ここを渡さないと、AIは知らないので議題に入りません。
前回の議事録の「持ち越し」の欄を、今月の報告と一緒に渡す。それだけで議題案の質が変わります。持ち越しの欄がない議事録なら、まずそこを直します。議事録の型は議事録に生成AIを使うときの社内ルールに書きました。
議題の順番と、各議題の所要時間は、AIの案をそのまま使わないほうがいい。社長が最初に聞きたいことは、社長しか知りません。案は案として受け取り、順番は会議の主催者が決めます。
経営会議の資料は、入力してよい情報の線を越えやすい
経営企画が扱う資料は、社内でいちばん機密度が高い部類です。未公開の業績、人事の処遇、取引先との交渉状況。入力してはいけない情報の線引きは第3条と第8条だけ先に決めるで扱っているので繰り返しませんが、この部署では1つだけ追加の工夫が要ります。
固有名詞と金額を、記号に置き換えてから渡す。「A社との価格交渉」「B部門の人員」「金額X」。文章の下書きに固有名詞は要らないので、出てきた文章に人が戻します。手間は増えますが、会社契約のサービスで学習利用の設定を確認済みでも、この部署の資料はこの運用にしている会社が多いです。
ここは会社によって違うので断定できません。ただ、経営企画の担当者が「これは入れていいのか」で止まる時間は、AIで減った時間より長くなりがちです。線引きは先に決めておきます。
「理由は人が書く」を運用に残す方法
「理由は人が書く」と決めても、忙しい月は下書きの理由をそのまま通したくなります。運用で残す方法を2つ。
稟議の様式で、理由の欄だけ扱いを変える。AIの下書きを貼るのは「目的」「金額」「期限」「代替案」の欄までで、「理由」の欄にはAIの出力を貼らないと決める。様式に「※この欄は起案者が記入」と1行入れておくと、続きます。
経営会議の資料に「起案者のコメント」の欄を残す。各部署の報告をAIで束ねた1枚の下に、担当者が3行だけ自分の言葉で書く欄を置く。「今月いちばん気にしているのはここです」。AIが書けない部分がここに残ります。
正直に書くと、この記事の6工程の効果を測るなら、時間の短縮より「経営会議の前半が決定に使えたか」のほうを見るべきだと思っています。測り方はAI研修の効果をどう測るかに書きました。
経営企画が2名の会社は、研修より先に試す
当社の研修は部署単位で2〜15名程度を想定しています。ただ、経営企画や管理部門が1〜2名という会社は多く、その場合は研修に出すより、まず本人が01と02を1か月試すほうが早いことがあります。月に1回の経営会議の資料なら、試せるのは月1回。3か月で3回。それで型が決まるなら、研修は要りません。
研修が向いているのは、経営企画だけでなく、報告を上げる側の部署(営業・製造・経理など)も一緒に受ける形です。報告する側が同じ型で書き、束ねる側がその型を前提に要約する。ここが揃うと、01の工程はさらに短くなります。受講者の組み方はAI研修に誰を出すかに書きました。
よくある質問
前年比や達成率の計算をAIにさせてはいけないのはなぜですか?
生成AIは文章を作る仕組みで、計算は間違えることがあります。間違えた数字も正しい数字と同じ見た目で出てくるため、見つけにくいのが問題です。計算は表計算ソフトで済ませ、出た数字をそのままAIに渡して文章にする分担をおすすめしています。出てきた文章の数字が元の表と一致しているかは、人が並べて確認します。
稟議書の下書きをAIに任せると、承認する側に失礼になりませんか?
様式の項目(目的・金額・期限・代替案)を埋める下書きは、AIに任せても問題ないと考えています。ただし「理由」の欄は起案者が自分の言葉で書く運用にしています。承認する側が読みたいのは理由の部分で、そこが起案者の言葉であれば、他の欄の下書きをAIが作ったかどうかは判断に影響しません。様式に「この欄は起案者が記入」と1行入れておくと、忙しい月でも続きます。
経営会議の資料は機密情報が多いのですが、入力して大丈夫ですか?
会社が契約したサービスで、入力データが学習に使われない設定を確認したうえで、入力してよい範囲を社内ルールで決めておく前提です。経営企画の資料については、固有名詞と金額を記号に置き換えてから渡し、出てきた文章に人が戻す運用を想定しています。それでも迷う資料は、AIを使わずに人が書きます。固有名詞を戻す手間はありますが、迷って止まる時間のほうが長くなりがちです。
数字は表計算ソフト、理由は人、文章はAI
経営企画・管理部門で生成AIを使うなら、分担はこの3つです。数字は表計算ソフトが出す。判断の理由は人が書く。それ以外の文章化は、AIの下書きで足りることが多い。
各部署の報告を束ねる、差異を3行にする、論点を整理する、KPIを定義する、稟議を下書きする、決定事項を通知する。この6つのどこから始めるかは、月の最初の1週間で何にいちばん時間を使っているかで決まります。
自社の経営会議の資料を1枚見せていただければ、どの工程が最初の1件に向くかをその場で整理します。
自部署の業務に当てはめて候補を出すなら、部署と業務を選ぶだけのAIに任せられる業務の診断が使えます。AIに任せられる業務の上位3つと、任せない業務、研修テーマの案がその場で出ます(入力不要)。