営業事務・受発注事務に生成AIを使う ── 注文メールの読み取り・納期回答・社内転記

朝9時、受注担当の受信箱に注文メールが十数通。複合機のトレイにはFAXが5枚。品番、数量、希望納期、納品先を1件ずつ拾って、販売管理システムに打ち込む。昼までにそれを終わらせて、午後は納期の問い合わせに答える。営業事務・受発注事務の一日は、だいたいこう始まります。

営業の生成AI活用というと、提案書や商談メモの話になりがちです。その話は営業の提案書づくりに生成AIを使うに書きました。ただ、提案書を書くのは営業担当者で、注文を受けてから出荷までを回しているのは営業事務の担当者です。担当者が違えば、扱う文書も、間違えたときに困る相手も違います。

この記事は、営業事務・受発注事務で生成AIを使える6つの業務と、任せない判断を書きます。登場する注文や件数は架空の想定例で、実際の顧客事例ではありません。

受発注の文書は、短くて、数字が詰まっている

提案書は1件が長く、文章の出来が問われます。受発注の文書は逆で、1件は数行なのに、品番・数量・単位・納期・納品先という数字と固有名詞が詰まっています。

だから、生成AIの使いどころも違います。提案書では初稿の文章を任せました。受発注では「読み取って型にそろえる」と「事実が決まった文面を整える」の2つが中心です。数字そのものをAIに作らせることはしません。

ここを取り違えると危ない。お詫び文の言い回しが多少硬くても取引は続きますが、数量の桁が1つずれた注文が出荷されると、返品と再出荷の手間が双方に出ます。

営業事務・受発注事務で使える6業務(想定例)

以下は架空の想定例です。効果を保証するものではなく、扱う商材や取引先の数で変わります。

業務いまの進め方生成AIを使った進め方
01 注文メール・FAXを一覧の形に整える1件ずつ読み、品番・数量・納期を拾って打つ本文を渡し、品番・品名・数量・単位・希望納期・納品先の列に並べさせる。原本と突き合わせてから使う
02 納期回答の文面生産や在庫の担当に確認し、毎回一から書く確認済みの回答日と条件を渡し、回答文の形に整える。日付は人が入れる
03 在庫切れ・遅延のお詫び言い方に悩み、送るのが遅れる遅れる品目・新しい見込み日・代替案を渡し、お詫びの文面にする。原因の書き方は人が決める
04 見積書の送付状前回の送付文をコピーし、宛名を差し替える件名・有効期限・確認してほしい点を渡し、送付文を作る。金額は本文に書かせない
05 社内システムへの転記前の確認打ち込んだあとに目視で見直す一覧にした注文の中から、単位の混在や納期の曜日など「確かめたほうがいい点」を挙げさせる
06 社内への連絡倉庫と営業にチャットで個別に伝え、漏れが出る当日の受注・変更・遅延を、倉庫向けと営業向けの連絡文に分けて下書きする

6つとも、AIが出すのは下書きか、確認の候補です。取引先に送る前、システムに登録する前に、人が確定します。

01は、受発注事務でいちばん時間を使っている作業に当たります。取引先ごとに注文メールの書き方が違い、品番が本文にある会社もあれば、添付の表にある会社もある。AIに渡して列をそろえさせると、読み取りの手間はかなり減るケースが多いです。FAXは、文字認識でテキストにしてから渡します。手書きの「1」と「7」、「ケース」と「個」の読み違いが出やすいので、ここは原本との突き合わせを省けません。

05は、照合そのものをAIにやらせる話ではありません。商品マスタや過去の注文との照合は、表計算で行うほうが確実なことが多いです。その手順はExcel作業を生成AIに任せるに書きました。AIに頼むのは、一覧の中から「単位がケースと個で混ざっている」「希望納期が日曜になっている」「納品先の書き方がいつもと違う」といった、人が確かめたほうがいい点を挙げさせるところまでです。

注文の受信から社内システムへの転記までの流れを、AIの段と人の段に分けて示した図。読み取りと文面の下書きはAI、原本との突き合わせ、納期・価格の確約、送信と登録は人が行う
AIの段は読み取りと文面まで。突き合わせ、確約、送信と登録は人の段に残します。

一覧に整えるときは、推測で埋めさせない

01でいちばん起きやすい間違いは、AIが空欄を埋めてしまうことです。

注文メールに希望納期が書かれていないと、AIは「通常納期」や、それらしい日付を入れてくることがあります。品名だけで品番がないと、似た品番を当てはめてくることもある。文章としては自然なので、一覧を眺めただけでは気づきません。

防ぐ方法は2つです。1つは指示の側で、「原文に書かれていない項目は空欄のままにし、推測で埋めない」と毎回書くこと。もう1つは確認の側で、品番・数量・単位・日付・納品先を、原本と1件ずつ突き合わせること。数字と固有名詞と日付を先に見る確認の順番は、AIの出力をどう確認するかで扱っています。

空欄が残った一覧は、出来が悪いのではありません。取引先に確かめるべき箇所が見えている一覧です。

お詫びの文面は、原因を書く前に止める

03の在庫切れ・遅延のお詫びをAIに頼むと、「弊社の管理不足により」「仕入先の都合により」といった原因の説明を入れてくることがあります。まだ社内で原因を確かめていない段階で、非を認めた文や、仕入先の名前に触れた文が取引先に届く。これは避けたい。

お詫びに書くのは、どの品目が、いつ届く見込みか、代わりに何ができるか、次にいつ連絡するか。原因に触れるかどうか、どう書くかは、営業担当や上長と決めてから足します。お詫び文の考え方は問い合わせ対応の返信文を生成AIでのお詫びの節と同じです。

02の納期回答も同じ構造です。AIの下書きに「ご希望の納期でお届けいたします」と入っていても、それは回答ではありません。生産や在庫の担当が確かめた日付を、人が入れます。

渡す情報の線引き:取引先名・単価・取引条件

注文メールには、取引先の会社名、担当者の氏名、単価、支払条件が書かれています。個人のお客様に直接出荷する商売なら、届け先の住所と電話番号も入ります。どれも、そのままAIに貼ってよい情報ではありません。

会社として契約しているサービスで、入力内容が学習に使われない設定を確かめてあるなら、どこまで入力してよいかを社内ルールに書いておきます。確かめていないなら、取引先名と担当者名を記号に置き換え、単価の列を外してから渡す。品番・数量・納期だけでも、01の一覧づくりは成り立ちます。入力してよい範囲の決め方は第3条と第8条だけ先に決めるに書きました。

任せない判断

ここまでの業務は、どれも読み取りと文面の仕事でした。次の2つは、AIの出力を下書きとしても判断の根拠にしません。

価格と納期の確約

値引き、単価の変更、特急対応、分納、納期の前倒し。取引先に「できます」と答えるのは、権限を持つ営業担当や上長、生産や在庫の担当が確かめたあとです。AIの下書きに約束めいた一文が混ざっていたら、その部分は削るか、人が書き直します。営業事務の担当者が板挟みになりやすいところなので、誰が確約するかを部署で決めておきます。

与信と取引条件の判断

新しい取引先と取引を始めるか、取引の限度をいくらにするか、支払条件や締め日をどうするか、前払いを求めるか。これは経理や営業の責任者が決めることです。判断の材料をそろえる作業でも、AIが整えた文章を根拠にはしません。

よくある質問

FAXで届く注文書も、生成AIで一覧にできますか?

できますが、先に文字認識でテキストにしてから渡す形になります。手書きの数字や単位は読み違いが出やすいので、品番・数量・単位・日付は原本と1件ずつ突き合わせてください。指示には「原文に書かれていない項目は空欄のままにし、推測で埋めない」と毎回書いておくと、それらしい値で埋められるのを防げます。

納期回答のメールを、AIに自動で送らせてもよいですか?

おすすめしません。AIに任せるのは回答文の形を整えるところまでで、回答する日付は生産や在庫の担当が確かめたものを人が入れます。下書きに「ご希望の納期でお届けいたします」のような約束めいた一文が混ざることがあり、そのまま送ると確約したことになります。送信は、日付と品目を確かめた人が行う運用を想定しています。

営業担当者と営業事務を、同じ研修に出してもよいですか?

出せますが、題材は分けて考えたほうが収まりがいいです。営業担当者は提案書や商談メモ、営業事務は注文の読み取りや納期回答と、扱う文書が違うためです。営業事務だけで受けるなら、受注担当や受注センターの2〜15名程度を1つの単位にして、一覧の列の決め方や回答文・お詫び文の型を演習で作る形が考えられます。演習は匿名サンプルの学習課題で行います。

数字は人が決め、読み取りと文面を任せる

営業事務・受発注事務で生成AIに任せるのは、注文を読み取って一覧にそろえること、確かめた事実を回答文やお詫び文に整えること、転記の前に確かめたほうがいい点を挙げさせることまでです。空欄は推測で埋めさせない。価格・納期の確約と、与信や取引条件の判断は人が持つ。この線を部署で共有しておけば、受信箱の十数通に向き合う朝の時間が変わっていきます。

自部署のどの業務から始めるか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。

自部署の業務に当てはめて候補を出すなら、部署と業務を選ぶだけのAIに任せられる業務の診断が使えます。部署の一覧にある「営業」や、どの部署にもある「社外メール」「Excel」から選ぶと、AIに任せられる業務の上位3つと、任せない業務、研修テーマの案がその場で出ます(入力不要)。